3-22. 失われた未来
「三、二、一、来るわよー!」
ズーン!
激しい衝撃音がして床が揺れ、亀裂がブワッと広がった。
「うわぁ!」
噴き出してくる氷点下二百度のガスが真っ白なキリとなり、一気に視界を奪う。
ガンガンガン!
俺は亀裂が発生した辺りへ向けて粘着ゴム弾を撃ち続ける。
「どんどん撃って!」
ミネルバが
「やってます!」
吹き付けてくる超低温のガスで顔の表面がパリパリと凍っていくのが分かるが、そんなのを気にしている場合じゃない。何億人もの人たちの命がこの一発一発にかかっているのだ。俺は必死に撃ち続けた。
ガンガンガン!
徐々に噴出ガスが減ってくる。
「何とかなりそうね!」
ミネルバの明るい声が響いた。
「良かったですよー!」
俺はホッとしながらゴム弾のカートリッジを交換し、さらに追加で撃っていった。
と、その時だった、急に照明が落ち、真っ暗になる。
「えっ!?」
直後、俺は意識を失った……。
◇
目を覚ますと……、薄暗い天井が見えた。
「あれ……?」
ショボショボする目をこすりながら起き上がり、辺りを見回す……。
そこは俺の部屋だった。
「え……?」
ミネルバは? 異世界の星は? エステルは?
全てを思い出し、
え? あの後どうなったの?
ベッドから飛び降りると、鏡の所へ行ったが、鏡面は硬い。
急いで【φ】の文字を書いてトントンと叩いた……が、何も起こらない。
「えっ!? なんでだよ!」
何度も何度も【φ】を書いた。
しかし、鏡はいつまで経ってもただの鏡だった。
なぜだ? 亀裂は解決できてたじゃないか。なぜ、俺だけ日本に戻された?
いきなり日本に戻されたということは、海王星でのミッションが失敗したからとしか考えにくい。それはすなわち……、ミネルバの星の消滅……。
エステルもミネルバももうこの世にいないってこと……?
全身の血の気がサーっと引いていくのを感じ、ひざから崩れ落ちた。
「え……、まさか……、そんなことないよなぁ!? おい……、エステルぅ……」
涙をポトポトと落とし、鏡をバン!と叩いた。
「うわぁぁぁ……」
床に崩れ、無様に泣き続けた。
全てを失ってしまった。サーバーは壊れてしまったのだ。もう異世界はこの世にないのだろう。エステルもみんなももう消えてしまったのだ。
「ぐぁぁぁ……」
もうすべてが嫌になった。就活地獄を強いるこのクソッタレな日本社会も、マリアン一人に滅ぼされてしまうぜい弱な異世界も、エステルに大切なことも言えずに失ってしまった俺のいい加減な生き方も全てにウンザリだった。
「あぁぁぁ……、いっそ俺も殺してくれよ……」
そのまま床にあおむけに寝転がると、ぼんやりと薄暗い天井を見ながら、ただただ涙を流し続けた。もう何も頭に浮かばなかった。
もう壊れてしまったように、床を濡らし続けた。
◇
涙が枯れた頃、俺はスマホを取り出して先輩に電話をかけた。しかし、出ない……。
俺はメッセンジャーでメッセージを送る。
『ごめんなさい、世界を救うのに失敗しました。もう一度チャンスをもらえませんか?』
しかし、既読スルーだった。失敗した者はもう要らないという事だろうか。俺は先輩にも捨てられてしまったのだ。
ベッドに横になり、
薄れゆく意識の中で、今後どうやって生きていったらいいか考えていた。異世界が無くなったなら、もう一度就活を始めないといけないのかもしれない。でも、今さら就活? 世界一つ滅ぼし、何億人も殺しておいて自分は就活かよ……。
エステルに会いたい。エステルのあの屈託のない笑顔に癒されたい。
「エステルぅ……」
俺は、ズタズタになった心を抱え、意識が薄れていった。
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