3-25. 言い損ねてたプロポーズ
「エステル……俺は君に言い損ねていたことがある」
「なんです?」
「俺はこの四日間エステルと一緒に命がけの冒険をしてきた。そして気が付いたんだ。これからもずっとエステルと一緒に人生を歩んでいきたい。エステルじゃないとダメなんだ」
「え?」
どういうことか分からず、
俺は大きく息をつき、しっかりとエステルの目を見て言った。
「結婚……、してくれないか?」
「はぁっ!?」
面食らってポカンとするエステル。
「俺は一生エステルを大切にする。だから考えて欲しい」
俺は微笑みながらも涙をたたえた目で言った。
エステルが驚き、固まり……。そしてゆっくりと首を振りながら後ずさりする。
やっぱりだめか……。そりゃそうだよな……。
俺は耐えられず、目をつぶり、大きくため息をついた。
これで奴隷決定……。人生終わった。
でも、最後にエステルに会えてよかった。もう悔いはないな……。
俺はぼーっと涙でゆがむエステルを見つめていた。
と、その時、いきなりエステルが金色に光り輝いた。
「うわぁ!」
俺はまぶしさに目がくらみ、よろよろと後ずさる。一体何がどうなったのか? エステルは無事なのか?
夕闇のウユニ塩湖に輝く黄金の光、それは水面に反射され、まばゆい光の筋がいくつも天へ向かって伸び、辺り一面に荘厳な雰囲気を醸し出した。
やがて光は徐々に弱まり、また静かな夕闇が戻ってくる。
そっと目を開けると、そこには大人の女性が目を閉じて立っていた。立派なブロンドをたたえ、身長も俺と同じくらいだ。
「え? 誰?」
俺が驚いていると、女性は目をゆっくりと開く。深い青をたたえた美しい碧眼だった。
「も、もしかして……」
すると、彼女はニコッと笑って言った。
「呪いが解けたわ、ありがと」
「え? 呪い?」
「そうよ、マリアンによってかけられた呪い……、
「え? じゃあ、もう人間……、これが本当のエステル?」
「そうよ、これが本当の私……、人間の私だわ」
俺は圧倒された。まさか、エステルがいきなりしっかりとした大人の女性になってしまうとは、全く予想もしていなかった。
「私、今までの私じゃないわよ。疑うし、嫉妬するし、計算高いわよ。マスコットみたいな都合のいい女じゃないわ。浮気なんかしたら殺しちゃうわよ?」
エステルはそう言って鋭い目で俺を見る。
俺は大きく深呼吸をし、言った。
「でも、心はエステルのままなんだろ?」
エステルは目をつぶり、一呼吸置くと、
「ふふっ、そうですよ」
と、ニッコリと笑って言った。
「なら、想いは変わらない。どうか僕と結婚してください」
俺はポケットからダイヤモンドの指輪を出すと、ひざまずき、エステルにささげた。
エステルはしばらく指輪を眺め、小さな声でゆっくりと言った。
「私、人間になってもドジなままですよ?」
「大丈夫です」
「私、もう二十七歳なんです」
「年上大好きです」
「これからもいっぱい迷惑かけちゃうですよ?」
「かけてください。二人で一緒に解決しましょう」
エステルは目をつぶり、涙をポロリとこぼした。そして、
「うっ、うっ、うっ……」
と、
俺は立ち上がり、震える彼女をそっと抱きしめた。
そして、耳元で、
「僕の……、お嫁さんになってください」
と、優しく言った。
美しい茜色の空が広がり、夕陽が水平線の上で最後の輝きを放つ。
エステルはうなずくと、
「はい……、お願いします……」
そう言って、涙いっぱいの目で幸せそうに頬を緩ませた。
「もう二度と離さないよ……」
「ずっと一緒ですぅ……」
二人は離れていた時間を取り戻すかのように、きつくお互いを抱きしめた。
助け合い、一緒にあがき続けた濃密な時間で深まっていた愛は今、形を持って二人を結びつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます