3-26. 新しい管理者

 パン! パン!


 クラッカーが鳴らされる。


 周りを見ると、先輩や先輩の会社の神様たちがいて拍手をしてくれている。


「やるじゃない、おめでとう!」


 先輩がにこやかに言った。


「あ、ありがとうございます」


 エステルは先輩を見ると恐縮し、恥ずかしそうに、


「あ、ありがとうです……」


 と、言った。


 と、その時、ポン! と音を立ててエステルのブラウスのボタンが飛んだ。子供用の服ではもう彼女の豊満なボディを包み切れなかったのだ。


 豊かな胸が飛び出してしまいそうになり、


「キャー!」


 と、エステルはかがんだ。すると、あちこちがビリビリっと音を立てて破れた。


「いやぁ! うわぁぁん!」


 慌てふためくエステル。


「もう、しょうがないわねぇ」


 先輩はそう言うと、パチンと指を鳴らす。


 すると、エステルの服は純白のウェディングドレスになり、俺は白のタキシードに変わった。


「えっ?」「あわわ!」


 いきなりの事で驚いたが、ウェディングドレスはマーメイドラインの大人びたエレガントな物で、長身のエステルにピッタリと似合い、花をあしらった純白のレースが華やかさを演出して、思わず見ほれてしまった。


「美しい……」


 俺がつぶやくと、


「うふふ、夢みたいですぅ」


 と言ってエステルは幸せそうに顔をほころばせた。


 ドレスのすそが濡れちゃうのではと心配したが、しっかりと防水してあって綺麗に水面に浮いていた。


「写真撮影しましょ。前撮りよ、前撮り!」


 そう言って先輩はエステルに近づくと、髪の毛を器用に整え、大きな花の髪飾りを編み込んだ。そして、最後に手早く化粧を施して、


「はい、それじゃ並んで~!」


 そう言って、先輩は俺とエステルを並ばせる。


「はい、笑って笑って~! チーズ!」


 美しいウユニ塩湖の夕景をバックにiPhoneで写真をパチパチと撮った。


 俺とエステルは見つめ合う。自然と笑みが浮かんでしまう


「はい、じゃ、キスして~」


 先輩は無茶振りする。


 俺もエステルも驚き、とまどう。


「結婚式ではするんでしょ! はい、恥ずかしがらない!」


 先輩がせっついてくる。


 俺が困惑していると、エステルが俺の方を向いて目を閉じた。俺も覚悟を決め、そっとくちびるを重ねる。すると、エステルが舌を入れてくる。


 え!?


 俺は驚いたが、つい合わせてしまう。


 二人は舌を絡ませ、想いを確かめ合った。


「はいはい、写真撮影中ですよ!」


 盛り上がる二人に先輩は呆れて言う。


 すっかり太陽は沈み、茜色から群青への美しいグラデーションが広がる中、俺たちは見つめ合い、幸せに包まれながら微笑んだ。


      ◇


「ねぇ、ソータ、管理者アドミニストレーターやらない?」


 先輩がいきなり聞いてきた。


「え? それは就職的な意味でですか?」


「まぁ、専業管理者アドミニストレーターに就職ってことになるでしょうね。マリアンの枠が空いたからミネルバの下で副管理人からね」


「え? 給料とかはどうなるんですか?」


「給料? あんたバカね。管理者アドミニストレーターってのはこういう事よ!」


 そう言うと先輩は扇子を取り出し、パチンと鳴らした。


 すると、空から膨大な数の金貨が山のように降り注ぎ、あっという間に小山を作った。


「うはぁ!」


 一瞬で何百億円にも相当する金が出てきたのだ。俺もエステルもビックリ。


「どうするの? やるの? やらないの?」


「やりますやります! やらせてください!!」


「よろしい!」


 先輩は扇子でパタパタと仰ぎながらご満悦の様子だった。


 そして、一緒に来ていたリーダーの男性に向かって、


「誠! そういうことだから研修に回しておいてね」


 そう言ってパチッとウインクする。


「はいはい、美奈ちゃんも毎度強引だなぁ」


 男性は苦笑した。そして、俺に向いて、


「じゃあ、いつから研修やる? 明日とかでも大丈夫?」


 と、優しく聞いてくる。


「私はいつでも」


「じゃあ、明日朝十時に田町の会社に来てね。担当はあの子」


 そう言って男性は水色の髪の女の子を指した。女の子はサムアップしてニヤッと笑う。


「分かりました! お願いします!」


 俺は女の子に頭を下げた。


「ちなみに彼女はああ見えて宇宙最強だから覚悟しててね」


 男性は耳元でそっと言う。


「宇宙最強!?」


 俺は思わず声をあげてしまい、女の子は


「きゃははは!」


 とうれしそうに笑い、あおい目をぼうっと光り輝かせた。


 なるほど、ただ者ではない……。


「お、お手柔らかにお願いします……」


 俺は頭を下げた。

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