3-20. 貨物船襲来

 それは何個目かのサーバーにたどり着いた時だった――――。


 俺はハァハァと息を切らしながらロックを解除し、力いっぱい引き抜いた。


 ヨイショ! と掛け声をかけて、床の上に置く。だいぶ慣れてきた。


 美しいガラスの工芸品をじっくりと見ていく。変な物はついていないか、異常はないか……。


 と、ここでコネクタの所に小さくセロハンテープのような物が貼られているのに気がついた。こんな物、今までのサーバーには無かった。もしかして……。


 俺はステータス画面を出して、ミネルバに連絡を取った。


「すみません、変なの見つけたんですが、これですかね?」


 俺はカメラ機能を使って動画で実況する。


「ハァハァ……。どれどれ……。うーん、これだけじゃわからないわね……、今すぐ行くわ!」


       ◇


 程なくしてミネルバが走ってきた。


「ハァハァ……。お疲れさま……。これね……」


 ミネルバはテープをジーッと観察し、テープに手をかけ、ペリッと剥がした。


 すると、その瞬間、サーバー全体がピカッと光り輝く。


「うわぁ!」


 俺が驚いていると、ミネルバは


「ビンゴ!」


 と、うれしそうに叫んだ。


「え? これで問題解決ですか?」


「そうよ、マリアンはこのチップでサーバーを誤動作させ、OSの特権処理に介入していたんだわ。ソータ君! すごい! お手柄だわ――――!」


 いきなりハグしてくるミネルバ。


 モフモフとした猫の毛が柔らかく俺を包み、俺は何だかこの上なく幸せな気分になる。猫ってすごい。


「これでもう大丈夫! 戻ってマリアンをとっちめてやるわよ!」


 ミネルバはヒゲをピンと伸ばして力強く言った。


 その時だった、


 ヴィ――――ン! ヴィ――――ン!


 急に警報が鳴り響き、照明が全部真っ赤に変わった。


「えっ!? なにこれ?」


 俺がビックリしていると、ミネルバはどこかと通信を始めた。


「えっ!? 貨物船? 十五分後!?」


 深刻そうな話が聞こえてくる。


「警備隊は何やってんのよ!? えっ? 強硬突破? こっちにはシャトルしかないわよ! ……。分かった。コードを送るからやってみて。うん……、うん……」


 通話が終わるとミネルバは頭を抱えた。


「ど、どうしたんですか?」


「貨物船がここに突っ込んでくるわ」


「えぇ!? そんなの、ジグラートは耐えられるんですか?」


「耐えられるわけないじゃない。外壁を破壊されたら氷点下二百度の高圧ガスが一気になだれ込んできてサーバー群は全滅だわ」


「えっ? サーバー群全滅ってことは……」


「うちの星は消えるわ……」


 ミネルバはガックリとうなだれる。


「マリアンがやってるんですか?」


「多分そうじゃないかしら? 私たちが海王星へ来たのを知って証拠隠滅を図ったんだわ」


「証拠隠滅のために星ごと滅ぼすんですか!?」


「サーバーハックは重罪。星を滅ぼしてでも逃げたいんでしょうね。あー、私に対する恨み……かもしれないけど……」


「狂ってる……」


「今、魔王がシャトルを遠隔操作して、貨物船に体当たりをさせているわ。何とか針路をそらせたらいいんだけど……」


 ミネルバはそう言って、シャトルからの動画を俺にシェアした。


 動画を開くと、雪が舞い散る風景と、レーダーの画像が見えた。レーダーには巨大な貨物船が迫ってきている様子が映っていた。


「シャトルぶつけたら何とかなるんですか?」


「貨物船の全長が四百メートル、シャトルの全長は十五メートル。どうかしらね……」


 ミネルバは渋い顔で淡々と言う。


「厳しい……感じが……」


 俺はちょっと気が遠くなった。


「魔王の操縦に期待するしかないわ。私たちにもできることをやりましょう。えーと、粘着ゴム弾……。ついてきて!」


 ミネルバはそう言って駆けだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る