3-12. 六十万年の壮大な計画
やはりそうか……。俺は仮想現実空間に生まれ、二十一年間生きてきていたのだ。つまり、俺はゲームのキャラクターみたいな存在だった……。でも、日本は科学が発達している。288Hzだったら矛盾が観測されているはずだ。
「いやいや、日本には高速度カメラだって、素粒子の加速器だって、288Hzでは矛盾が出る装置なんていくらだってあるじゃないですか!」
「ん? そこだけシステムが検知して自動で周波数上げてるんだよ」
魔王は当たり前のようにニッコリと笑って言う。
「え? 本当に? でも、時間だけじゃない、量子効果だってコンピューターでは再現できないはずですよ?」
「量子って結局確率の話だからね。コンピューターで再現するのはそんなに難しくないよ。量子コンピューターには量子コンピューターそのまま当てはめてやるだけだし」
「え……?」
俺は必死に仮想現実空間では不可能な理由を探した。しかし、いくら考えても矛盾は見つからない。確かに原理的にはコンピューターの規模さえ整えば実現可能だった。
「君たちの使ってるパソコンの計算速度がだいたい秒間で5x10の11乗回、日本ご自慢のスパコン富岳で4x10の17乗回。そして、海王星にあるIDCのコンピューターは5x10の29乗回。富岳の1兆個分だね。まぁ、ちょっと想像を絶する規模だよ」
俺は
「そんな膨大なシステム、誰が何の目的で作ったんですか?」
「多様性のある文化・文明が欲しくて、海王星人が60万年かけて作ったって聞いたな……」
魔王は宙を見あげながら答える。
「60万年!?」
俺は絶句した。そりゃそうだよ。富岳一兆個分のコンピューターなんて百年や二百年じゃ作れっこないのだ。それにコンピューターは電気をものすごく食う。電源も用意しなくてはならない。途方もない時間かかるのは仕方ないだろう。
太陽系ができてから46億年と聞いたことがある。よく考えれば60万年といっても太陽系の歴史に比べたら一瞬だ。俺は宇宙の壮大なスケールと海王星人の執念に思わずため息をついた。
「この世界が仮想現実だと何か不都合でもあるのかい?」
魔王は淡々と聞いてくる。
「不都合?」
俺は悩んでしまった。21年のこの人生の中でリアルじゃなくて困った事……。何も思いつかなかった。しかし、俺はコンピューター上のデータ。データに価値なんてあるのだろうか?
「私が電子的存在だったとしたら、私って何なんでしょう? ゲームのキャラクター?」
「自分が何者かはコンピューターが定義するものではない。『我思う故に我あり』、実装環境が何であろうと、『思い』は宇宙に一つだけの珠玉の宝石であり、アイデンティティだ」
魔王は優しい目で言う。
「思うことそのものに価値があるってことですか?」
「そう、思いは神聖にして不可侵な君の世界だ。また同時に、君の思いは他の人の思いと有機的な関係を築きながらオリジナルな世界を紡ぎだす。そしてその思いの集合の結果生まれる文化・文明が海王星人の求めるものなのだよ」
なるほど、高度に発達した科学力を持つ海王星人たちにとってもオリジナルな文化・文明を簡単に合成はできないってことだろう。そこで俺たちを生み出し、紡ぎださせている。それは大変に非効率かつ冗長に見えるけれども、それ以外方法が無いということなのだ。俺は生まれて初めてこの宇宙の
「おっといけない! ミネルバ様に連絡しないと……」
そう言って魔王はiPhoneで電話をかけた。
ここまで文明が発達してるのになぜiPhoneなのかはちょっと疑問だった。
緊急会議が開かれるとの事で、ミネルバの拠点へ行くことになった。
魔王は空中に指先で大きな円を描くと、大きなドアがポンっと現れた。
そして、魔王はドアをノックする。
「どうぞー」
若い女性の声がして、魔王は中へ入り、俺たちを呼んだ。
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