3-11. 海王星の衝撃

「でも、魔物たちは魔王様が作り出しているんですよね?」


「そう、ダンジョンを作って魔物を配置するのは私の仕事だよ。これにより人々に意欲を与え、社会に活気を醸成するのさ。ああやってるんだ」


 そう言って後ろの巨大なモニタ群を指さす。


 よく見ると、そこには多くのダンジョンデータといろんなステータスが並んでいた。


「魔物と宝箱を配置し、冒険者に魔石と宝を供給するのが僕の仕事。中には命を落とす冒険者も出てしまうが、魔物がダンジョンを抜け出して一般人を襲うようなことはしない。あくまでもフェアにやってきた」


「フェアでも死者や遺族からしたら納得できないと思いますが」


「うん、そうだね。恨んでもらうしかない。」


 そう言って魔王は肩をすくめて首を振る。そして、続けた。


「でも、登山家が雪山で命を落としたとして、山を作った神様の問題だというかな?」


「いや、そうですが、人を殺さない魔物も作れますよね?」


「昔はそうだったよ。でも、それは結局テーマパークにしかならなかった」


「真剣勝負でないと価値がない……ってことですか?」


「人間の本質がそこにあるということだよ、ソータ君」


 俺は悩んでしまった。確かに雪山に登らなければ遭難しないし、ダンジョンに潜らなければ魔物には殺されない。選択の結果ではある。しかし、惨殺死体をこの目で見てしまっていた俺は簡単には割り切れなかった。


 


「それより、魔物の群れなんだがね、あれは本当に私がやってるのではないんだ」


 魔王はお手上げのポーズをする。


 嘘をついているようにも見えないし、確かに俺たちに嘘をつくメリットも無いだろう。となると、あの魔物倉庫は何だったのか?


「ちょっとこれ見てください」


 俺はスマホを差し出し、魔物倉庫で撮った写真を何枚か見せる。


「えっ!? なにこれ!?」


「昨日、とある空間でこれを見つけてですね、ほとんど倒しておきました」


 魔王は驚愕の表情を浮かべながら、スマホを食い入るように見つめた。


「ちょっとこれ、メッセンジャーで送ってくれる?」


 そう言って魔王は最新型のiPhoneをポケットから出し、QRコードの画面を俺に差し出した。


 俺は異世界の魔王がiPhoneを使いこなしている様に違和感を覚えながらも、フレンドになって写真を送っておいた。この部屋はアンテナが五本も立っていて電波バッチリなのだ。


 魔王はジーッと写真を拡大しながら、ハァーっとため息をつく。


「これは……、ミネルバ様にすぐにご報告せねば……」


「ミネルバ様……?」


「この星の管理者アドミニストレーターだよ」


 俺は管理者アドミニストレーターという言葉にゾクッとする感覚を覚えた。そこにはIT系の匂いが漂っていた。魔物を管理しているあの巨大なモニタ群からしても、ここは現実世界ではないということだろうか……。


管理者アドミニストレーター……? もしかして仮想現実空間を管理している方……ってことですか?」


 俺は恐る恐る聞いてみた。


 すると、魔王はニヤッと笑って言った。


「ほう、良く分かってるね。そう、ここはコンピューターが作り出した仮想現実空間。ミネルバ様はここの管理を任されているのさ」


 俺は思わず大きく息をついた。この世界はリアルな世界ではなかった。多分そうだろうとは思っていたが、実際にそうだと言われてしまうと心が追いついていかない。リアルでないってことはゲームみたいなものということだ。エステルと必死に戦い、生き抜いてきた全てがゲームだと言われてしまうのはやりきれなかった。


「秒間三百回くらい合成レンダリングされているようなので、そうかなと思っていたんですが……、やっぱりそうですか……」


「おぉ、良く気づいたね。正確には288Hzだよ。海王星にあるコンピューターが計算して秒間288回像を合成レンダリングしているのさ」


「海王星!? なぜそんなところに……」


 俺は予想もしなかった情報に驚かされた。太陽系最果ての星、海王星。それは図鑑でもちょこっとしか出てこないなじみの薄い星だ。なぜ、そんなところにコンピューターシステムを構築しているのだろうか……?


「太陽系で一番寒い所だからじゃないかな? 熱はコンピューターシステムにとって最大の敵だからね」


「ここが仮想現実空間だというのは理解しました。でも、なぜ、iPhoneがそのまま動くんですか?」


「え? だって日本だって同じシステムで動いてるからね。iPhoneもただの仮想現実のオブジェクトだよ?」


 俺は絶句した。


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