3-6. 百万匹の魔物
切れ目は倉庫の上方に開いていて、全体の様子が良く見えた。
そっと様子をうかがうと、手前の所にはゴブリンらしき魔物が一メートルおきに整列していて、それが二百メートル四方くらいに及んでた。つまり、四万匹である。そして、ゴブリンたちは全員微動だにせず静止している。
隣の区画にはコボルト、その奥にはオーク、トレント……と並び、何キロも先の奥の方には巨大な魔物が並んでいるのが見える。ワイバーンより大きい物すらいそうだ。ドラゴンだろうか?
数はパッと見える範囲だけで百万匹に達しそうだった。ここは魔王の秘密倉庫? ここから街を襲撃する魔物たちを出しているのだろうか? 俺はどうしたらいいか混乱していた。
ガチャ! ギギギー!
下の方でドアの開く音がした。
俺はそっと切れ目を少し戻し、聞き耳を立てる。
「マリアン様、次の侵攻の準備はバッチリです」
しゃがれた男性の声が響く。
「ほう、いいじゃない……。あれ? ゴブリンはこんなに要らないって言わなかったっけ?」
若く張りのある女性の声だ。
「こ、これは失礼いたしました。半分に減らしておきます」
「しっかりしなさいよ! それじゃ、後は手はず通りに王都とバンドゥによろしく!」
「ははっ、かしこまりました」
「また一歩
女性は感慨深そうに言う。
「楽しみでございます」
そう言って、二人ともしばらくうれしそうに笑い合っていた。
やがて出て行ったようで、ガチャン! と重厚なドアが閉められた。
きっと魔王の関係者だろう。ここに用意した魔物を王都とバンドゥに十万匹ずつ送り込むつもりらしい。俺は決定的な拠点を探し当てた興奮で心臓が高鳴り、思わずガッツポーズをした。スマホで証拠写真も撮っておく。
それにしても
いや、そんな事後回しだ! 急いでこいつらを処分しなくてはならない。
俺はダッシュで部屋に戻るとエステルを叩き起こした。
「エステル! 出番だ! お前の力を貸してくれ!」
「ソ、ソータ様……? 何があったですか?」
エステルは寝ぼけまなこをこすりながら起き上がる。
「世界を救う方法が見つかった! 急いで宿屋の殺虫剤を取りにいこう!」
「わ、分かったです! エステル、頑張るです!」
エステルは半開きの眼でよろよろと立ち上がると、右手を挙げた。
◇
俺たちは急いでダンジョンを抜け、宿屋へと走った。倉庫に誰もいないうちに魔物たちを倒してしまわないとならないのだ。時間との勝負である。
宿に着くと、スマホの写真を見せながら作戦を伝える。
エステルは殺虫剤を淡々と魔物倉庫のフロアに下ろす。俺はそれをリュックと袋に積めるだけ積んで、二十メートルおきに火をつけて置いていく。一個でどのくらいの魔物を倒せるか分からないので、倒せた範囲を見て次の置き方を検討する。こんな感じだ。
「分かったですぅ!」
エステルは目を輝かせて殺虫剤をゴロゴロと赤茶の洞窟へ放り投げ始めた。
俺は殺虫剤を両手とリュックに満載して魔物倉庫のフロアに降りると早速殺虫剤に火をつけていった。
幸い、魔物は整然と区画で整理されているので、区画間の通路にどんどんとおきながら走っていける。
とは言え、魔物は百万匹。三キロくらい先までビッシリだ。それに、強い魔物は奥の方にあるので非常に骨が折れる。
また、途中で彼らが戻ってきたら計画は終わりにせざるを得ない。一応ドアノブはヒモでグルグル巻きにしてあるが、そんなのすぐに突破されるだろう。時間は限られている。
俺はダッシュで殺虫剤を置いていく。まず、一直線に三十個、六百メートルほど置いてみた。そして、帰りながら魔物の退治具合を観察する。
この密度で配置していくと、通路から五十メートルくらいの範囲の魔物は倒せるらしい。で、あれば、二列で三キロ、百五十個ずつ配置していけばほとんどの魔物を倒せる計算になる。
俺はエステルに『三百個お願い!』と頼み、また、殺虫剤を満載して配置へと走っていった。
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