2-11. 茶髪の女神様

 部屋に戻ると俺はベッドに横たわり、スマホで殺虫剤について調べまくった。十万匹の魔物を倒すのに有効な殺虫剤を見つけないとならないのだ。


 俺一人で噴射し続けても十万匹は無理だ。くん煙式殺虫剤をズラッと並べて一斉噴射とかじゃないとキツそうだ。それでも風向きが悪かったら効かないし、噴射も一分くらいしかもたない。何度も配置しなおさないとならない。


 悩んでいたら、普通のくん煙式殺虫剤十六個分の薬剤が出る業務用の製品を見つけた。これはすごい。きっと魔物を圧倒してくれるだろう。そして、これを束ねて時間差で点火していってやればいい事に気が付いた。導火線に長さの違う線香をつけて、最初に一斉に点火してやれば次々と時間差で噴き出すに違いない。


 百個束ねたものを東西南北の各城門に設置して、火をつければ百分間は城門を守れるだろう。その間に魔物の密集している所に殺虫剤を放り投げて行ったり、飛行魔法を使える人に十個くらい束ねたものを持って飛んでもらえば、そこそこ減らせるに違いない。


 ちょっと高いが、殺虫剤代はギルドから出してもらえばいい。


 後はそんなにまとまった数をどう調達するかだな……。


 俺は問屋さんに次々と電話していった。どこも一見さんお断りという感じで断られたが、最後に現金一括なら卸してもいいという所が見つかった。行ける! 行けるぞ!


 盛り上がっていると、


「おじゃましますぅ」


 と、声がする。エステルだ。


「はい、どうぞ!」


 答えるとエステルが入ってきた。


 胸の所に編み紐のついたピンクのワンピースを着て、金髪はきれいに編み上げ、花の髪飾りを付けている。さっきとはうって変わって綺麗になったエステルにドキッとする。


「あ、あれ、エステル、随分と綺麗に……なったな」


「うふふ、ありがとうですぅ」


 頬を赤らめるエステル。


「そろそろ……、夕飯の時間かなって思って……」


 さっきの女の子たちに対抗しているらしい。


「あ、そうだね。じゃ、何食べようか?」


「こっちのレストランがいいな……」


 エステルは恥ずかしそうにうつむく。クラウディアに乱入された件もあって相当警戒しているようだ。


「分かった。じゃあ、イタリアンでも予約するか……」


 俺はネットで近所のイタリアンを探し、評価の高い所から適当に選んで予約した。


        ◇


 運河を見ながら二人でしばらく歩き、こざっぱりとした小さなイタリアンレストランを見つけた。ガラス窓から中を見ると、立派なピザ釜には炎が上がっている。これは期待できそうだ。


 窓際の席に案内してもらって、とりあえずスパークリングワインを頼み、それから適当に前菜とサラダと肉料理、ピザを頼んだ。


「それで魔物退治の方法は見つかったですか?」


「あぁ、何とかなるかもしれない。バルザンってあったろ、モンスターハウスに放り込んだ奴。あれを束ねて時間差で噴出させて、それをみんなに持ってもらおうかと思って」


「なるほどですぅ!」


 エステルは目を輝かせた。


 丁度来たワインで、乾杯する。


「それでは魔物討伐の成功を祈って! カンパーイ!」「かんぱーい!」


 一口含むと、シュワシュワとした泡の中からホワイトフラワーの香りがし、後から野生のベリーのアロマが出現してくる。凄いワインだ……。俺は世界を救えそうな手ごたえに充実感を感じ、ワインの酔いに心地よく揺られた。


 俺たちは次々と出てくる美味しい料理に舌鼓をうちながら、殺虫剤の準備をどうやるかを雑談交えて楽しく盛り上がっていた。


「きゃははは!」


 奥の団体さんがさっきから異常ににぎやかである。


 どんな団体かと思い、ワインを飲みながらそっと様子をうかがって、ワイングラスを持つ手が止まった。


「えっ!?」


 美奈先輩だ……。ソバージュのかかったセミロングの茶髪を手でさらっと流し、仲間と笑っている。透き通るような白い肌にパッチリとした琥珀こはく色の瞳、そのドキッとするほどの美しさは見間違いようがない。


 異世界を作り、俺をいざなった超越的な神様が目の前でワイン飲んで笑っているのだ。俺は唖然あぜんとして、言葉を失った。


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