2-9. 突然のモテ期
彼女たちを街まで送り届けないとならない。十九階から行こうとすると、ニ十階のボスを倒してポータルで入り口に飛ぶのが手っ取り早そうだ。
四人で十九階の階段を下りると、デカい金属でできた扉があった。どうやらこれがボス部屋らしい。
重い扉を開け、中に入ると体育館のような広大な広間が広がっていた。
ドアが自動的にギギギーっと閉まり、魔法のランプがポツポツと中央部を照らしだす。
何が起こるのかと思っていたら、部屋の中央部に巨大な魔法陣が展開し、光を放った。
俺はすかさず魔法陣の中心に向けて殺虫剤を噴霧する。
プシュ――――。
すると、一瞬何かが出てきたようだが、コロンと魔石が転がった。
そして、魔法陣もランプも消え、出口の扉がギギギっと開く。
「あれ? ボス……は?」
「ガーゴイルが出るはずなのに……」
女の子たちは口々に不思議がる。
「もう、討伐完了だよ。お疲れ様!」
俺はニヤッと笑った。
「えっ!? どういうことですか?」
女の子たちは駆け寄ってくると、俺が拾った紫色に輝く魔石を見た。
「すごい! すごーい!」
「さすがCランクですねっ!」
そう言いながら女の子たちは俺の腕にしがみついた。
なんだこのモテ期は!?
俺は両腕に押しつけられた豊満な胸の柔らかい温かさに、思わず心臓が高鳴った。
「いやぁ、それほどでも……」
ついニヤけてしまう俺。
見ると、エステルが寂しそうに俺をジーッと見ている。
俺はハッとして、
「は、早く帰りましょう!」
そう言ってポータルへと歩き出した。
無事地上に戻り、ギルドへ向けて一緒に歩く。
「ソータさんはなんでそんなに強いんですかぁ?」
「その缶は何なんですかぁ?」
「あの部屋は何だったんですかぁ?」
女の子たちが興味津々で次々と聞いてくる。
いちいち胸を押しつけながら聞いてくるのは何なんだろうか? 困惑しながらもついニヤけてしまう。
これ以上秘密を知る人を増やしてもいけないので、
「それは秘密、もっと仲良くなってからね」
とはぐらかす。
「えーっ……、じゃぁ、今晩、一緒に飲みませんかぁ?」
魔術師の女の子は上目遣いに聞いてくる。
「いやいや、私と行きましょうよ! いいお店知ってるんですぅ……」
僧侶の子も実に積極的だ。
二人とも美人だし、エステルより少し年上な分、色香も凄い。
俺は生まれて初めてのモテ期に顔が緩みっぱなしである。
でも、彼女たちも俺も本気で浮かれている訳ではない。あっさりと失われた冒険者の命を目の前にして、はしゃいでいないと心がどうにかなりそうだったのだ。それだけ彼の死は暗い影を俺たちの心に落としていた。
ふと、後ろを振り返ると、エステルは普段通りにニコッと笑った。もしかしたらエステルの方が本当は大人なのかもしれない。
◇
ギルドに着くと、受付嬢に事の
剣士の男は生還してきたら要注意人物として告知するそうだ。背伸びしたくなるのは分かるが掛け金が一つしかない命である以上、身の丈を超えたことには慎重にならなくてはならないし、仲間を捨てて一人逃げ去ったというのも問題だった。
ただ、これは俺も他人事ではないと思う。極限状態に追い込まれた時に自分だったらちゃんと適切に動けるか? 絶対背伸びはしないか? と考えると、安易に大丈夫とも言い切れない。冒険とは安全だけ追っていては成果にならないし、不測の事態は必ずやってくる。適切な判断をし続ける事は、思うよりもずっと複雑で難しく思えた。
一通り手続きが終わると、俺は魔石を換金する。今日は金貨一枚ちょっとにしかならなかった。がっかりして帰ろうとすると、
「あ、ソータさんはマスターからお話があるようなので、マスターの部屋へ行っていただけますか?」
と、受付嬢に引き留められた。
嫌な予感がする……。
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