3-4. 一生、一緒

 トゥルルル……、


 俺は必死に祈った。


 先輩! 出て! 頼む!


『ハーイ! ソータ!』


 明るい声で先輩が出た。


「せ、先輩! お願いがあります!」


『ダメよ!』


 いきなり拒否られる俺。


「えっ!?」


『女神はそう簡単に願いなんて聞けないわ』


 冷たい声で突き放す先輩。


「えっ! えっ! 一生のお願いです! 何でも言うこと聞きます! 彼女を助けてください!」


 俺は必死に叫んだ。


『何でも?』


「何でもです!」


『絶対?』


「二言はありません!」


『じゃあ、あなた、その子と結婚しなさい』


「はぁっ!?」


 俺はあまりに唐突な条件にあっけに取られた。


『できないの?』


「い、いや、そのぉ……。結婚って彼女の意志もあるわけで、私の一存では……」


『昨日夢の中で聞いたら『結婚? そうなったら嬉しいですぅ』って言ってたわよ』


「えっ? えっ?」


 俺は言葉を失った。


『どうするの? するの? しないの? 切るわよ』


「ちょ、ちょっと待ってください! 彼女まだ子供ですよ?」


『何言ってんの。彼女、あなたよりずいぶん年上よ』


「はぁ!?」


 俺は予想外の事態にうろたえた。見るからに十代半ばの女の子が俺より年上だなんて一体どういうことだろうか?


『どうすんの? 私忙しいのよ』


「えっ、こういうのはじっくり考えないと……」


『その程度の相手ってことね。残念だわ。じゃあ……』


「ま、待ってください! します! 結婚……、いや、プロポーズ……します……」


『……。なんだか微妙に逃げようとしてない?』


「あ、いや、ちょっと心の準備がいるので、ちょっと時間だけください」


『ふぅん……、急いだほうがいいと思うんだけどな……。分かったわ。結婚式には呼んでね』


 ガチャ!


 そう言って電話は切れた。


「えっ!? 先輩、せんぱーい!」


 切られてしまって唖然あぜんとする俺。


「エ、エステルは?」


 俺はエステルの方を見た。すると……、太ももは真っ白だった。


「や、やったぁ!」


 俺は急いでその白くすべすべとした太ももをなでてみる。温かく柔らかく、傷一つなく完治していた。さすが先輩、完璧な仕事だった。


 俺は思わずガッツポーズをした。


「良かったぁ……」


 俺はへなへなと床にへたり込んだ。


 と、ここで、約束を思い出す。


 プロポーズ……、するって言っちゃった……。今さらなかったことには……できないよなぁ。


 俺はボーっとエステルの顔を眺めた。


 スースーと穏やかに寝るエステル。


 この子と結婚? 俺が? 彼女いない歴二十一年の俺がいきなり結婚?


 俺は一体どうしてこうなったのか、ひどく混乱した。


 もちろん、エステルは可愛いし、失いたくない大切な人だ。しかし、こんな簡単に一生を共にする伴侶はんりょを決めていいのだろうか?


 俺はジーッとエステルの可愛い顔を眺める。サラサラとした綺麗な金髪に透き通るような白い肌。ちょっと低いけど、スッと鼻筋の通った形の良い鼻。プックリとおいしそうな果実のような唇。


 彼女が俺の嫁になる……。いいの? 本当に?


 俺はそっと頬をなでた。


「ソータ様ぁ……」


 寝言を言うエステル。俺はドキッとした。


 心の底からエステルへの愛おしい想いが噴き出してきて、俺は胸がキュッとなった。


 俺は目をつぶり、彼女と共に暮らす生活を思い描く。それはきっと毎日イベント盛りだくさんのにぎやかな暮らしになりそうだった。俺の隣にいつもエステルがいる……。あれ? 悪くない……かも……。


 エステルがいない暮らしとどっちがいいか? 答えは明白だった。そうだよ、俺はエステルと一緒にいたい。


「一生、一緒……。うん」


 俺はそう言って、彼女の頬にそっと頬ずりをする。


 エステルのモチモチとした柔らかい頬が、俺の心に温かい灯りをともした。


 先輩は、俺の人生をねじ曲げようとした訳じゃなかったのだ。自分の心の声に気が付かない間抜けな俺に呆れ、背中を押しただけだったのだ。さすが女神様。俺より俺の事知ってるんだ……。俺は先輩に心から感謝をした。


 俺はそっとエステルの隣に潜り込み、添い寝をする。愛しい人の温もりを感じ、優しい香りに包まれながら寝入っていった。

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