3-2. ドジっ子大ピンチ

「いやぁぁぁ!」


 穴をのぞくと、ホーリークッションをかけたエステルがぼうっと淡く光をまといつつ、ゆっくりと落ちながらこっちを向いて叫んでる。大変にマズい事態になった。エステル一人で行かせるわけにはいかないが、俺が飛び込んだらホーリークッションで受け止めきれるだろうか……?


「ソータ様ぁ! 来てくださいぃ!」


 悲痛な叫びがあがる。


 俺は逡巡したが、エステルを失う訳にはいかない。意を決して穴に飛び込んだ。


 ヒュー! と風を切りながら、あっという間に加速しながら落ちて行く俺。


 エステルは俺に向けてホーリークッションをかける。だが、減速はしてもすごい速度の俺はそう簡単に止まらない。あっという間にエステルを追い抜いていく。


 ヤバい!


 俺は必死にエステルをつかんだ。


 ガシッとつかんだ先は足首。


「きゃぁ!」


 エステルは一気に引っ張られ、二人してしばらく落ちていたが、やがて減速して何とか転落せずに済んだ。


「危なかったぁ……」


 俺はホッと胸をなでおろす。


「ダンジョンは走っちゃダメ!」


 エステルの足につかまりながら、俺は怒った。


「だって、こないだまでこんな落とし穴なかったですぅ……」


 言い訳してしょぼくれるエステル。


「これからは絶対に走らないこと!」


「はぁい……」


 それにしてもこの穴はどこに繋がっているのだろうか……、前回は六十階のボス部屋だったから、その辺りの階層に違いない。相当魔物は強いだろう。俺は嫌な予感がしたので、鏡で帰ることにした。


「エステル、鏡出して! 帰ろう!」


「は、はい!」


 エステルは急いで背負っていた鏡を下ろすが……、


「きゃぁ!」


 手を滑らせて鏡が落ちて行く。


「うわっ!」


 俺は手を伸ばして一瞬つかんだが、鏡は重い。俺の手をすり抜けて、鏡は真っ逆さまに落ちて行く。


「あぁぁぁ!」「いやぁぁぁ!」


 しばらくして、ガーン! という衝撃音がして鏡がフロアに激突した。


 あまりの事に、俺は言葉を失った。


 鏡が壊れたらもう二度と日本には戻れない。俺は目の前が真っ暗になった。


「ごめんなさいですぅ……。うっうっうっ……」


 上でエステルが泣いている。


 エステルがミスしたら俺の責任、そうは言ったがこれはあんまりじゃないかなぁ……。俺は何も言うことができず、ただ、うなだれていた。


 やがて、フロアが見えてきたが、そこにはうじゃうじゃと魔物の影がうごめいていた。モンスターハウスだ。俺はハチ・アブ・マグナムZのロックを外し、噴射を始める。


 「ギャウッ!」「グギャァ!」


 次々と溶けていく魔物たち。


 やがて、フロアに降りると、俺は残りの魔物たちに向けて噴射を続けた。


 この時、カン! と俺の左腕の丸盾に何かが当たった。見ると、矢が転がっている。


 矢で射られているのだ。


「エステル! 弓矢だ! 気をつけろ!」


 そう言って辺りを見回すと、遠くで弓を引いている魔物が二匹見えた。残念ながら殺虫剤が届く距離ではない。


「きゃぁ!」


 エステルが叫んで倒れた。


「エステル――――!」


 見ると、矢が太ももに刺さっている。これはマズい。


 俺はエステルを物陰に運び、辺りを見回した。他の魔物は倒し終わったようだった。


 しかし、弓矢の魔物は相変わらず射程外から淡々と矢を射ってくる。矢はマズい。当たり所が悪ければ死んでしまう。


 俺はゆっくりと深呼吸を繰り返し、


「セイッ!」


 と、掛け声とともに盾を前にし、弓矢の魔物に向かって駆けだした。魔物は小人で頭の上に光るものを乗せ、可愛い顔しながら弓を巧みに使って矢を射ってくる。


 俺はカン! カン! と盾で矢をはじきながら接近する。射程距離に入ると横にステップして殺虫剤を噴射し、弓の魔物に浴びせた。


 「グギャッ!」「グゥゥ!」


 と、悲鳴をあげ、溶けていく魔物たち。


 俺は急いでエステルの方に戻る。エステルは太ももを抑えながら脂汗を流し、泣いている。


「うっうっうっ……、ソータ様ぁ……」


「大丈夫だからね」


 そう言って俺は矢の刺さっている所の服を裂いた。すると、真っ白な美しい太ももに矢がブッスリと刺さり、刺さったところは赤黒く変色していた。


 俺はあまりにも生々しい惨状に思わず気が遠くなり、目をつぶった。こんなのどうしたらいいのか? 


 俺は混乱して動けなくなり、手が震えた。


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