1-17. 歴戦の猛者の風格

 ヒソヒソと、ロビーの冒険者たちが俺たちの事を話しているのが聞こえてくる。


 なんとも気まずい時間が流れた。


「ちょっと、二階の部屋へ来ていただけますか? ギルドマスターがお呼びです」


 受付嬢がそう言いながら出てきて、階段の方へ案内する。


 彼女はコンコンと重厚な木製の扉を叩き、ギギギーと開くと、


「どうぞお入りください」


 と、言った。


 案内されるがままに部屋へ入ると、ひげを蓄えた中年の男が鋭い目つきで俺を見る……。ガッシリとした筋肉質の体格は凄腕の冒険者といった風貌だった。


 そして、相好を崩すと、


「すまないね、ちょっと話を聞かせてくれるかな?」


 そう言ってソファーの椅子をすすめた。


 俺たちはソファーに座って姿勢をただす。


「ソータ君? 双頭のワイバーンを一人で倒したって本当かね?」


 向かいに座ったギルドマスターは射抜くような視線で俺を見て言う。


「そうです。この薬剤を噴霧ふんむして倒しました」


 そう言って俺はスプレー缶を見せた。


「薬剤?」


「私は薬を操るスキルを持っていて、それで魔物を倒します」


「ほう……。そんなスキル初めて聞いたな……」


 エステルが横から言う。


「私も見てましたし、クラウディアさんが一部始終を見ています! 後で彼女に確認してください!」


 


 ギルドマスターはエステルをチラッと見た後、俺の目をジッと見つめ……、そして言った。


「なるほど、それであれば問題ない……。ところで、君は稀人って知ってるかな?」


 キタ――――! と内心思いながら、


「え? 何ですかそれ?」


 としらを切る。


「魔物からこの地を救う救世主の事なんだが……、君はもしかして稀人だったりしないかね?」


 鋭い視線で俺を見る。俺は内心ビビりながらも、就活で鍛えた取り繕うスキルで、


「残念ながら私はただの薬剤師ですね」


 と、淡々と嘘をつく。


「稀人だったら貴族扱い、上流階級の暮らしができるんだぞ?」


 ギルドマスターは身を乗り出してアピールする。


「マスターがもし稀人だったら申告しますか?」


 俺は極力表情を出さないようにしながら聞いた。


 マスターはまゆをしかめ……、腕を組んで考え込み……、ニヤッと笑って言った。


「まぁ、しないだろうな」


 俺はニコッと笑い、


「もし、将来稀人になる事があったら申告します」


 そう返した。


「……。まぁいい。君も聞いているかもしれないが、今、人類は危機に立たされている。最近になって頻繁に十万匹規模の魔物の大津波が街を襲ってくるようになった。すでにいくつもの街が滅ぼされている」


 ギルドマスターは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。


「深刻ですね……」


「それに対抗する切り札が稀人……と、されている。君もこのギルドの一員になるという事であれば、魔物の侵攻の際には力を貸してくれないと困る」


「もちろん、そのつもりです」


 ギルドマスターは俺の目をジッと見据え……、


「頼りにしてるぞ……」


 と、熱を込めて言った。


「が、頑張ります」


 俺は気迫に圧倒されながら答えた。


「それで、ギルドカードのランクだが……、双頭のワイバーンを一人で倒せるなんてのはもはやSランクだ。しかし……初発行の最高ランクはCなのだ。まずはCランクから始めてもらうでいいかな?」


「私は何でも」


 そもそもランクが何を意味するのかもわかってないのだ。そう答える以外ない。


「よろしい! では、Cランク冒険者のソータ君、これからよろしく!」


 ギルドマスターは右手を差し出し、俺は握手をする。


 彼の手のひらは皮が厚くゴツゴツとして、歴戦の猛者の風格を感じさせた。



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