2-13. 神様の中の神様
俺は彼らを見送り、席を立つと、会計に残っていたアラサーの男性に声をかけた。
「すみません、美奈さんの後輩なんですが、もしかして美奈さんのベンチャーの方ですか?」
「え? あぁ、そうですね。AIベンチャーですね」
彼は落ち着いた口ぶりで答えた。特段神様っぽい雰囲気は感じない。普通の人間のように見える。
「AI!? 神様……とか宗教関係ではないんですか?」
「あはは、AIと神様は不可分だからね」
そう言って男性は笑った。俺は何を言ってるのか全く理解できなかった。神とAI、美奈先輩とAIにどんな関係があるんだろうか?
「美奈ちゃんに……、何か頼まれましたか?」
男性は俺の目を見て、申し訳なさそうに聞く。
「じゅ、十万匹の魔物倒して世界救ってくれって……」
俺はこんな事言っていいのか戸惑いながら言った。
「ええっ!? そりゃ大変だ……。でも、美奈ちゃんがそう言うからには何か勝算があるんだよ。ああ見えて世話好きだから」
そう言って男性はニッコリと笑った。
「
店の外から美奈先輩の声が響く。
「はいはーい!」
男性はそう答えると、
「君とはまた会う事になりそうだな。グッドラック!」
そう言ってサムアップをして、出て行った。
「リーダー! レッツゴー!」
ムキムキの白人が男性に叫ぶ。
「リーダー!?」
俺は驚いた。ただの人間だと思っていた穏やかな男性が、なんと神様たちのリーダーだったのだ。神様の中の神様、あの男性が……?
美奈先輩もみんなも全員一瞬で消えたのだ。そして、その異常な事態に街の人は誰も不自然に思っていないようだった。
俺はあっけにとられて動けなくなった。今まで異世界で魔法などの不思議なことが起こるのはなんとなく受け入れていたのだが、日本で当たり前のように瞬間移動が使われていたのだ。彼らにとっては日本も自在に操れるフィールドの一つに過ぎない、という事だろうか?
俺はしばらく放心状態で立ちすくんでいた。
◇
帰り道、エステルは上機嫌だった。
「えへへ、女神様に会っちゃったですぅ」
そう言ってスキップをして、クルッと回って可愛くニッコリと笑った。
俺はと言うと、人間離れした彼らの存在をどう考えたらいいのか途方に暮れていた。
異世界を作った先輩に、ワープして消えたAIベンチャーの人たち、神はAIと不可分だというリーダー……。
全く想像が及ばない世界に、俺はため息をついた。
「ソータ様、二次会やるです! 二次会!」
そう言いながら、うつむく俺を下からのぞきこむエステル。
「うーん、じゃあコンビニで買ってくか……。飲み過ぎはダメだぞ」
「やったぁ!」
はしゃぐエステル。
◇
部屋に戻り、鏡を抜けて宿屋に行く。こっちの方が広いので飲むならこっちだろう。
ポテチの袋を開けて小さな丸テーブルに置き、缶ビールをプシュッと開けた。
エステルは梅酒のソーダ割を選んだが、缶の開け方が分からないようだった。
「こうやるんだよ」
そう言って開けてあげる。
「さすが! ソータ様!」
缶を開けてほめられたのは、生まれて初めてかもしれない。
「カンパーイ!」「かんぱーい」
まずは乾杯。ゴツっと缶をぶつける。
それにしても今日はいろいろあり過ぎた。もう頭が追いついていかない。
俺はビールをゴクリと飲み、ホップの香りに浸りながら、ふぅっと息をついた。
「明日はどうするですか?」
梅酒を片手に、エステルがニコニコしながら聞いてくる。
「ギルドに殺虫剤代を貰いに行って、換金して、買い付けに行って、線香使って遅延発火のテストだな……」
「大変ですぅ……」
エステルが眉をひそめる。
「魔王と話がつけば戦わずに済みそうなんだけどね、一応準備は進めないと」
「魔王さん止めてくれるですかねぇ?」
「女神様の口ぶりじゃ止めてくれそうだったけどねぇ」
戦闘は何とか避けたい。殺虫剤がうまく機能したとしても十万匹相手では犠牲は出てしまうからだ。
しかし、俺が十万匹の進行を食い止められると知ったら、魔王は俺を殺そうとするんじゃないだろうか? のこのこ会いになんて行って大丈夫なんだろうか?
先輩ももう少しその辺教えて欲しいよなぁ。本当に『世話好き』なのかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます