吉報

「なーんか変な人だったな。」

「厨ニ、病?」

帰りの車でオミト楽しそうにしていたが、久遠はぐったりしている。

うとうとしているようだが、ぎりぎり寝ていないようだった。

「でも、わりと美味しかったわ。」

「そうだな。」

私はダッシュボードに本が数冊挟まっているのが見えた。

タイトルは『アフタヌーンティー大全』、『紅茶の飲み方講座』とある。

「勉強してたの、アフタヌーンティーのマナー?」

「初対面で恥をかくわけには行かないだろ。」

「これからはあの人と仕事するの?」

「そういうことになる。胡散臭い男だとは思うが、贅沢は言ってられない。」

「……ねえ。」

「どうした?」

「殺し屋、やめられないの?」

思いがけない言葉だったのか、目をパチパチと動かした。

「うーん。」

久遠は後ろで寝息を立てていた。

「お金だってもう十分あるんじゃない?」

「死ぬまで働かなく生活はできるよね。」

「……でも。」

「今さら生き方なんて変えられないよ、もうずっとそうだったから。」

会社のこと、チュンさんのこと。

これからもこの先も、裏切りと血の匂いしかない人生を歩く。

オミトはとっくに知ってるんだ、他の生きた方も。

でも、選ばないだけ。

オミトはここにいることを望んでいる。

自らも滅ぼすかもしれないけど、それでもーー。

「いつでも。辞めたくなったらやめていいから。逃げなきゃいけないならどこでもついて行くし、私も働くから。ほら、コンビニさえあれば働けるし!」

「ははっ、そうなったらお願いしようかな。」

オミトは珍しく満面の笑みだった。

そのとき着信音が鳴った。

久遠の携帯だ。

「ふあ?ーーもし、もし?」

目を擦りながら電話に出る。

「……あ。」 

無言のままスピーカーモードに変える。

なぜか久遠は返答しなかった。

「聞いてるの?!伊緒奈が目を覚ましたのよ!」

「聞いてるよ。」

代わりにオミトが答えた。

「まだ、様子は見ないといけないけど……とにかく後で病院に来て。」

「わかった、行くよ。」

久遠は電話を切った。

静かに泣いていた。

「伊緒奈……目、覚ましたって。もう、俺。俺。」

「病院行くぞ。」

「ああ。」

オミトはアクセルを強く踏んだ。



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