訓練
蛇口を捻り、じょうろに水を注ぐ。
「うっ、ちょっと入れすぎた?」
持ち上げようとしたが、重くて持ち上げれない。
仕方ないので、少し零して軽くする。
庭の植えたばかりの植物に水をやろうと、半ばスキップしながら畑に向かう。
こないだの土のこぼれた苗は今やちゃんと根を張っている。
何て喜ばしいことなんだろうか。
今までより茎が太く、しっかりしているから、きっとたくさん収穫ができるかもしれない。
想像しただけでワクワクが止まらなかった。
「ーーっ、危なっ!」
畑の方から声がする。
「今の、普通、避けれる。」
急いで駆け寄ると、オミトと久遠が殴り合いをしていた。
殴り合いといいながらも、お互い手加減をしてるのか拳が掠ってもほとんど衝撃はなさそうだった。
畑の横でやっているので、いつ苗を踏んでもおかしくない。
「こら!うちの野菜を踏んだらどうすんの!」
思わず叫んだ。
「あ。シュノーー。」
オミトが油断した瞬間、久遠の拳が顔面に入った。
「ぐべっ。」
普段聞かないような声を出して地面に横向きに倒れた。
数秒間、頬を抑えながら悶絶する。
私はオミトに駆け寄ろうとする。
「え、大丈夫?」
「よそ見、よくない。」
「ああ、そうだな。」
オミトは久遠に手を差し伸べられて、起こしてもらおうと立ち上がった
その時、足元にある苗を踏みかける。
「ストップ!踏みかけてる!」
「んっ?ーーうわっ。」
オミトは気を取られたのか、また倒れた。
「やっと安定してきたんだから、そういうのは向こうでやってよね!」
「ご、ごめん。」
「久遠さんも、オミトが畑の方に吹っ飛んだらどうするつもり?」
「す、すまない。」
2人は私の顔を見て機嫌を伺っていた。
「ほら、今から水やりするんだから。向こうでやって。」
私が言うと、2人はそそくさと森の方へ移動していった。
「ったく。」
ため息をつきながらじょうろで苗に水をやる。
少しずつ、優しくゆっくりかける。
このまま大きくなったらアブラムシやアゲハの幼虫なんかもつきやすくなるだろう。
そう思うだけで心配になる。
やはり手入れはきちんとしなければ、こないだ買ってきた柵もちゃんと立てよう。
そう考えながら、水を上げていた。
「シュノサン?」
「メイメ……さん?」
メイメーーチュンさんと挨拶に来た女性が白い箱を持っていて立っていた。
陶器製の箱であり、骨壷を思わせる。
「オミトサンタチ、ィル?」
「森の方へ行ったから走れば追いつくと思うけど、どうかしたの?」
「チュンサンに、ウル、タノマレタ。シュノサン、カウ?」
「買うも何も……その箱を売ってるの?」
「カンポウノ、ザイリョウ」
「……。」
漢方の材料って普通、ウコンとかウイキョウみたいな乾燥した植物じゃないのか?
どうして骨壷みたいな箱を持ってるんだろうか。
そもそもーー。
「オミトって漢方使ってるっけ?」
「オミトサン、サバク、ルート、モッテソウ。」
「……。」
箱の形状や、漢方という言葉。何だか嫌な予感がした。
「とりあえず、オミトはあっちだから。」
「ワカッタ、アリガト。」
メイメは、頭を下げてオミトを追っかける。
私は畑の水やりに戻った。
「漢方って骨のことじゃないよね?」
そんなまさか。
私は何もなかったことにした。
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