襲撃

畑にある花を何本か切り、無造作にバケツに入れる。

裏にある墓に行き、丁寧にたわしでこすり水をかけて、花を供えて手を合わせた。

この墓にいるのはオミトが、殺した相手ばかりだ。

私は特にこの墓に眠る人に感情はないが、実家にいた頃の習慣で常に墓は綺麗にしないと落ち着かない。

「おい。」  

声をかけられて、後ろを振り向いた。

40代くらいのボロボロなジャンパーを着た男性だった。

「はい?何でしょうか?」

不自然に男に近づかれたと思ったら、いきなり両手で首を掴まれた。

「?!」

それが首を絞める行為だと気がつく頃にはすでに遅かった。

「あのクソイカれた男はどこだ?」

「いやっ。だ……れ?」

男性は手を緩めて、私の腹を殴った。

突然、離されて思わず咳き込む。

「高身長の肌の白い男……、知らないのか?」

オミトのことだ。

私は返事をせず、わざとらしく咳き込み続けた。

時間を稼がなくては。

目的かわからないが、今の状況はとてもまずい気がする。

「もう2人別の男が暮らしてるだろ?お前は?」

「私も、ここに住んでるの。あなたは?」

「は?お前、アイツらの何なんだよ。」

先ほどから私に対するあたりが強い。

「何だっていいでしょ?」

「チッ。」

思いっきり、私の脛を蹴ってきた。

「痛っあ!」

金属の板でも入っているのか、青いあざができる。そして、足を抑えて地面に座り込んだ。

「答えろよ、わからないならもう一発入れるが?」

「……。」

本当にこの人誰なんだろう。

オミトの同業者には見えない。

「あの人の知り合いなの?なら、お茶淹れるわ。」

私は立ち上がると、家の中に案内した。

部屋に入れるのは危険だと思ったが、少しでも時間を稼ぎたい。

どうせ外にいても武器を持っていたら抵抗できないはずだ。

キッチンでお湯を沸かし、煎茶を淹れる。

「どうぞ。」

男は特に疑いもせず、一口で飲みきった。

「それで、なぜここに来たの?」

「この家の男に用がある、お前さん家政婦か?」

「ま、そんなところね。」

「ずっとここにいるのか?」

「ここ2年くらい暮してたの。」

私は新しいお茶を注ぐ。

「あいつらはいつ帰ってくる?」

「さあ、いつもフラフラしてるから知らないの。数日間いないのもザラよ。」

なるべく怪しまれないように、と思ったがもし帰ってきたら自動車の排気音でわかってしまう。

ヒヤッとしたが、顔には出さない。

「アイツらが何をしているか知ってるのか?」

「いや、全く。私ここで住み込みで家事してるだけだから。」

相手に情報を伝えないのは基本だとオミトが前に言ってた。

嘘をつくのは慣れてないならバレやすい。だったら、勘違いを誘うような言動をすればいいと。

「裏の墓は?」

「手入れを任されてるだけよ。」

私の一挙一動をまじまじと見る。

「おい!やっぱりお前何か知ってるだろ!」

いきなり包丁を出されて、テーブル越しに突きつけられる。

「何?」

「そんなに冷静にいられるわけないだろ!普通!」

「そう?」

私は冷めた目をするが、男は怒りをあらわにしていた。

さて、どうしたものかと考えていると急に車のエンジン音がする。

オミトたちが帰ってきたんだ。

「くそ、帰って来やがった。」

男は包丁を持ったまま、じわりじわりと出してくる。

「俺は子供を殺されたんだ!」

私は動かなかった。男を真っ直ぐ見る。

「帰ったほうがいいわよ、お子さんのことを思うならなおさら。」

男は包丁を向ける手が震えてる、きっと慣れてないんだ。

完全に素人だ。

「は?」

「復讐考えてるなら、こんな手は通用しないわ。」

「何を言ってるんだ、アイツらぶっ殺してやる!」

「早く帰って。今なら庇えるから。」

私は玄関のドアが開かないかヒヤヒヤしていた。

「せめて包丁しまって!言い訳できなくなる!」

「おい、これ以上騒いでると殺すぞ!」

男は覚悟を決めたように包丁を私に向けて走ってきた。

私は慌てて避けるが、髪の毛をかする。

やはり家に案内したのは失敗だったか。

男は振り向き直して、私を刺そうと走ってきた。

ドアが開く。

「ただいま、シュノーー。」

オミトが部屋に入った瞬間、自体を察知して部屋の真ん中にあるテーブルを思いっきりスライドするかのように押して私と男にぶつけた。

「うわっ!」

「ぐおっ!」

私と男は盛大に体制を崩して倒れる。

次に私が見たのはオミトと久遠に押さえつけられた男だった。

「お客さんにしちゃ物騒だな。シュノ、この人は?」

「強盗?」

私は返答に困ったが、

「えと、お茶出したからお客さん……かも。」
























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