尋問

「シュノは他に何もされてない?」

いつも以上に優しい声をかける。

でも、目が全く笑ってない。

「蹴られただけよ。」

本当はすごく痛い。どちらかというと、

「久遠、いつもの道具持って来て。皮1枚にしても喋らせる。」

普段からは想像できない冷たい声。オミトは怒ると静かになるタイプらしい。

「倉庫、やろう。」

「それもそうだな、準備してくれ。」

私はオミトの指を握る。

「あの人どうなるの?」

「殺されかけたのに、それか?」 

オミトは呆れる。

「だ、ダメ?心配したら。」

「いや。」

いつもの優しい声ではない。

「シュノ。」

「準備できた。」

ゴム手袋にマスクをし、黒い服に着替えていた。

オミトたちは男を連れて立つ。

「今日は1人で夕飯食べて。」

「ええ、わ、わかったわ。」

1人になった部屋で、倒れたテーブルを元に戻す。

椅子についた血を雑巾で拭き取り、落ちていた包丁を拾う。

倉庫のほうから男の叫び声がした。

絶えることなく、ずっと。

「酷い声。」

身震いしていると、久遠が戻ってきた。

「あら、もういいの?」

マスクを口元から少しずらし、息を切らしていた。

「ごめん。お茶ほしい。」

「お茶?」

「倉庫、暑い。」

「……。」

拷問する側が暑さで苦しむのか。

私は麦茶を入れたボトルとコップ3つを渡す。

「……?」

「どうせ、オミトも同じでしょ。あと、お客さん用。持っていってあげて。」

「……わかった。」 

私は戻るオミトを見送ったあと、待っていた。

尋問してたときの声はもう聞こえてない。

夕日の沈み、夜になる。

ご飯も食べずにずっと待っていた。

別に食べてもよかったんだが、そんな気になれなかった。

結果的とはいえ、私のせいで人が死ぬ。

そんな風に思えてならなかった。

でも、どうすればよかったの?

「ただいまー、聞き終わった。」

「お疲れ、オミト。久遠さんも。」

2人は男を連れてはいなかった。私は察したが、あえてたずねる。

「あの人は?」

「死んだよ。」

あっさり答えた。

「復讐したかったらしいよ、俺たちに。」

「だから殺したの?」

「生かしとく理由もないからね。」

私はゾッとしたが、それ以上は聞かなかった。

本当は何でも知っているだろう。

でも、身震いが止まらない。

もっと別の不安が頭によぎったが、すぐに忘れることにした。

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