過保護

何も食べてないので、3人分の夕食を作ろうキッチンに行き、包丁とまな板を出す。

「んー。」

お腹が痛くて、患部を手で擦る。

テーブルが当たった部分の痛みが強くなる。

そのうち治るかと思い、包丁を握ると久遠に手を掴まれた。

「出かける、から、料理しなくて、よい。」

戸惑っていると、オミトに抱き抱えられる。

「ひゃ?!ーーどうしたの?」

そのまま無言で車の後部座席に乗せられた。

まるで拉致だ。

昔もこんなことあったなーー前のときは抵抗したけど。

回想してると、

「ごめん。」

オミトが手を合わせて謝ってきた。

「え。何が。」

「怖かっただろ?いきなり包丁突きつけられて。」

「いや、そんなに。というか、どこに向かってるの?」

「勝谷先生の、とこ。診察。」

久遠は欠伸をした。

「わざわざ診てもらわなくても大丈夫よ。」

そう言ったが、2人は首を横に振った。

「気がついたら、手遅れ、は、よくある。」

「異常がないならそれでいいから。」

数十分もしないうちに、こないだ来た総合病院につく。

出入り口は閉まっており、横にある小さな出入り口から非常灯の明かりが、かすかに漏れる。

「……なあ、夜だから勝谷はいないんじゃないか?」

「確かに。自宅、行く?」 

「ああ。」

そして、今度は住宅街に向かった。その中でも、ひときわ目立つ豪華な家の前で停まる。 

久遠がインターンフォンを押すと勝谷が出てきた。

「夜遅くに何?急患?違うなら、帰って。ドグサレ犯罪者。」

相変わらずの辛辣さである。

「すまん、シュノを診てもらっていいか?」

急にドアが開く、勝谷が慌てて飛び出した。

「オミト、まさか自分の奥さんをーー。」

「ち!が!う!襲われたんだ。」

「はあ。とりあえず、こっちに来て」

私は、そのまま客室に通される。

勝谷は軽く私を問診して、聴診器をあてられる。

「特に問題ないね。本人もピンピンしてるし。精神的にも安定してるわ。」

「よかった。」

オミトは安心しているようだった。

「襲われたって話だけど、誰に何をされたの?」

「包丁持った男に、殴られたり蹴られたりしました。」

「そう。ねえ、オミト。」

勝谷は一息ついてからオミトのほうを睨みつけ、

「アンタは何してんの!もしかしたら奥さん殺されてたかもしれないのよ!」

「だからここに連れてきてるだろ!」

「そもそも以前だってーー。」

怒鳴り合いをするが、久遠は我関せずといった感じだった。

「オミト、お願いだから落ち着いて。」

私はオミトの手を強引に引っ張る。

「ごめん、シュノ。」

「オミトを完全に手名づけているわね。」

勝谷が呆れていた。

「うん。先生、夜遅くにありがとうございました。」

私は頭を下げた。

「はい、急患分。また用があったら来るよ。」

輪ゴムで巻いた万札を何個か渡した。

「アンタも現場では気をつけなさいよ。きな臭い話が多いから。」

「あー、はいはい。」

面倒くさそうにオミトは返事した。

家を出るとすっかり真っ暗だった。

「お腹すいたねー。ご飯でも行く?でも、店閉まってるか。」

「……ファミレスか、最悪テイクアウト。」

「シュノ。」

オミトが立ち止まって頭を下げる。

「どうしたの?」

「今後はこんなことないようにするから、今回は本当に!ごめん!」

私は驚いたがすぐに微笑んだ。

「気にしてないからいいよ。」

「だからさ、今度どこか遊びに行かない?どこでもいいよ。」

「あ、私が決めていいんだ。」

オミトから提案してくるのは珍しい。大体、目的を決めずにぷらぷらするのが普通だ。

「じゃあ、水族館!」

「即決だな……、ん。じゃあ、明日行こうか。久遠も行くだろ?」

「まあ、いいけど。」

オミトと手を繋いで、車に乗り込む。急に手に入れたご褒美に私はワクワクが隠せなかった。

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