水族館
「少ないな、人。」
「平日の朝だからじゃない?」
館内に人はほとんどおらず、貸し切り状態だった。
「久遠さんとは仕事以外で2人で出かけるの?」
「んー、あんまり。久遠も普段は何しているか知らないからな。」
2人でゆっくり水槽のトンネルを歩く。長いトンネルは海底にいる気分にさせてくる。
「水族館来るの初めて。」
「あれ?そうなのか?」
「うん、来てよかった。本当に綺麗ね。」
魚たちはこちらを気にせず、水槽の壁に近づいたり離れたりその場に留まったりしていた。
ここにいると、海の中にいる気分になる。
トンネルを出ると、『南極の生き物コーナー』があり、ペンギンが氷の上で涼んでたり、アザラシが優雅に水槽をターンしながら泳いでいた。
「ペンギンって初めて見た。」
「……俺の地元でよくいた。」
「あれ?オミトってそんなに寒いところに住んでいたの?」
「いや、ただの港町だよ。近くにあった水族館によく行ってただけ。」
「そういうものなの?」
「水族館……っていうほど豪華じゃなかったかも。ペンギンと、小さな魚に、大きなカメしかいないようなところ。」
「へえーーカメ?水族館に?」
「リクガメだっけ?大きい地上で生活する大きなカメ」
両手でこれくらい、と表現する。
「カメキャベツとか食べるところが可愛いんだ。」
人間を愛護する気持ちは1ミリもないらしいが、動物を愛でる感情はあるらしい。
「意外だった?」
「う、うん。」
もしかして顔に出てた?
「ペンギンって愛らしい顔してるのね。」
「鳴いてても可愛いな、飼うのもいいかもしれない。」
「冷凍庫でもうちに置くの……?」
オミトはパンフレットを開いて、指をさす。
「そういえば、イルカショーやってるらしいけど、行くか?」
パンフレットは書き込みがされていて、オミトはそこまで調べていたのかと関心した。
「行きたい!」
「じゃ、久遠を呼んでくるよ。」
オミトは来た道を戻って行った。
私は魚を見ながら、ゆっくりと水族館の中を歩く。マットの敷いたふかふかの床は私の足を包み込んだ。
冷静に考えると、オミトとデートらしいデートをしたの初めてでは?
普段は買い物か水汲み、それと畑仕事手伝ってくれるくらいだ。
オミトとは特に苦痛を感じないから一緒にいるのであって、夫婦としての愛情は存在しなかった。
2年間、そこに疑問を持たなかったしオミトがどんなことをしてても気にならなかったのだ。
その上で思えば、私の夫婦生活というのは謎だ。
苦痛じゃないからしてるだけ。
できるなら、ずっとこのままがいい。
そのうちオミトが殺し屋として働けなくなったら、3人で静かに暮らしたい。
子供いてもいいかも、でも久遠がいるならやっぱり難しいか?
ーーそもそも、オミトは大人しく生活してくれるのか?
オミトにとって、殺しや拷問は趣味なわけで。
嫌がったらやめてくれる?
必要性があったらやめてくれる?
疑問は湧き出てくるが、答えは出ない。
今日までの自分が急に不安になってくる。
そもそも、明日も来年も同じように生きていけるなんてどこにも保障されない。
私達は多かれ少なかれ変化をしていく生き物だ。
それだけは確かで殺し屋は、多分最も顕著な例だ。
「シュノ、イルカショー始まるよ。」
遠くで呼びかけられる。
「あ。ごめん今行く!」
私は走って追いかける。
今、結論出さなくていいことをわざわざ考えなくても。
だから思考を放棄した。
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