記者3
翌朝、起きてキッチンに行くと山佐がいた。
オミトたちは朝から用事があるらしく、さっさと準備して出掛けてしまった。
「そもそも何で殺し屋してるんですかね、あの2 人は?」
「久遠さんに聞いたことがあります。」
「ほう。」
「って言っても久遠さん曰く、『俺がいなかったら殺し屋なんてするような奴じゃなかった』と。」
「詳しい話は?」
「聞いたことないです。」
私はニッコリと笑った。
トーストとトマトを皿にのせて山佐に出した
「すみません。朝ごはんも頂いちゃって。」
「別にいいですよ、今夜もご飯作りますけど食べます?」
「はい、お願いします。」
「じゃ、ちょっと出掛けて来ますから好きに過ごしてください。」
「どこ行くんですか?」
「魚釣りです。」
「ついていっても?」
「まあ、どうぞ。」
曇り空の中、バケツと釣り竿とガラスのコップに入った釣り餌ーーうねうね動くミミズをもって近くの川に行く。
「……この釣り餌、どこから持ってきてるんです?」
「うちの畑です。」
ミミズを釣り糸につけて、そのまま投げた。
そのまましばらく待つがピクリとも動かない。
「シュノさんといるときのオミトさんは穏やかですね。」
「みんなに言われます。そんなに気立ってるもんです?」
「飲ませるまではわりと……。」
考えてみると、私の初対面だって思いっきり殺されそうになってたし。
というかこの記者、意図的にオミトを酔うまで飲ませたのか。
「……。」
一緒に住んで半年以上ろくに外に出してもらえなかった。
ずっと家の中にいた気がする。
そういえば、あのときはパッチワークや裁縫ばかりしていた。
あんまり上達しないからやめてしまったが。
「ーーかかってます。かかってますよ、魚。」
山佐の声で竿を引くと、キラキラと輝く黄色の魚が釣れた。
バケツに入れると元気に泳ぎ始めた。
「……何の魚だろ?」
「ウグイですかね。これくらいの浅瀬で釣れますし。」
「へえ。」
オミトは久遠以外には基本冷たい。
私には配慮を感じるが、同時に過保護だし。
未だにみんながいうオミトの異常性がよくわからない。
私を襲った男を拷問したのも、チュンさんを殺したのも、オミトだ。
「ーーまた、魚かかってますね。」
私はその声で引き上げると、同じような魚が釣れた。そのままバケツに移す。
「ウグイですかね?」
「おそらくは。」
「山佐さん、オミトのこと正直どう思います?」
次の釣り餌を、竿に付けながら聞いた。
「え……。」
困惑したのか、顔をしかめて
「……感情の起伏が激しい方ですね。主に怒りの方に。」
オブラートに包んでこの表現だもんな。
「山佐さんも、オミトに悪態つかれたことあるんですか?」
「僕に対してはそんなに。でも、ちゃんと紹介受けるまでは警戒されてましたね。」
私は、他の人間と違って信用されている気がする。
無防備に隣で寝たり、自分の気持ちをたくさん話してくれるし、優しい。
オミトにとって、今の私は家族だからだろうか?
それとも逃げられないから?
「わあ!シュノさん、逃げられてますよ!」
釣り餌を入れたコップに視線を向けた。
「あ……。」
いつの間にかミミズは逃げ出していたらしく1匹も残っていない。
「蓋してなかったらこんなことにならなかったですね。」
「わかってたのに……。でも、蓋探すの面倒だし。」
山佐はそう言って笑った。
「今日は釣りは終わりにします。」
「そうですね……。」
2人で、ちょっとだけ落ち込んだ。
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