結婚指輪5
「ねえ。動きにくんだけど?」
本を見ながら縫い物をしていた。
持ってきた洋服が少なくなっており、試しにワンピースでも作ってみようと挑戦していた。
『真っ直ぐ縫うだけで簡単!ムームー!』と書かれたページがオミトの腕で見えない。
「離れたくない。」
オミトは私を抱きしめていた。
「そう。」
すでに数週間経っていたが、驚くほど平和だ。
ーー外に出してもらえないこと以外は。
オミトか久遠が私を見張っていて、外に出ようとするとやんわりと止められる。
わざわざ関係に亀裂をいれることもないかと思い、私も強くは言わなかった。
「そういえば、今日プランターに赤い実がなってたよ?食べられるんだっけ、あの実?」
「ええ。イチゴの1種よ。本当はたくさん植えてジャムにしたいけど、キッチンにしかプランター置けないしね。」
「……畑作りたい?」
「まぁね。」
オミトは、私の肩に顔を置いた。
「外に出るのはもう少し待って。色んな準備がいるから。」
思い切って聞いてみることにした。
「信用できないから?」
「違うよ。」
「じゃあ、何?」
「君の戸籍や今までの形跡を完全に消しているところだから。」
「……。」
「新しい戸籍ができたら、外に出ていいよ。」
「そんなにあっさりできるものなの?」
「厳密にはもっと年数がかかるけどな。」
オミトたちにとって一般人の私が隣にいるのは色々面倒なことがあるんだろう。
「私、いつまで軟禁されてるの?」
「あと、半年くらい。」
「長いわよ。」
「じゃあ、どうする?」
「別に。大人しく待ってるわ。あの日の続きなんてごめんだもの。」
「逃げたら殺されると思ってるの?」
「ええ、違うの?」
「そんなこと……しないって言いたいけど、わからん。状況による。」
オミトは目線を動かしていた。
「正直ね。」
「嫌われたくないから。」
軟禁しておいてそれはないだろう。
まあでも、この家にいるだけの生活は悪い気はしない。
私の実家なんてもっと酷かった。
お金はあった。
この家の何倍も広くて大型犬やハムスター、インコを飼ってお手伝いさんもたくさんいた。
豪邸に、習い事、最高の学校。
私がその恩恵を受けられないだけで。
長男である弟ばかり可愛がられ、お手伝いで来ていたおじいさんとおばあさんに育てられたようなものだ。
家具や家電も立派なものなんて全くなかった。
畑で野菜を作って鶏を育てて、魚を釣っていた。
あきらかに貧しかったが、生活自体は嫌いじゃなかった。
色んなことを教えてもらった。
高校を出てからは一人で暮らし、コンビニでバイトしながら、生活費を稼いでいた。
「……シュノ。」
オミトにほっぺをつつかれる。
「何か考えていた?」
「昔のこと。」
オミトはなぜか強く抱きしめる。胸がを締め付けられるような感覚だった。
「いたい、痛い、痛い。」
「あっ、ごめん。」
慌てて手を解いた。
「……しばらく外には出してあげられないけど、欲しいものがあったら何でも言ってね。」
「うん。」
オミトは私のことを軟禁してるが、嫌な感じはなかった。
私に冷たい目を向けることもなく、嫌がることをし続けるわけでなく、かといって無関心ではない。
人として扱われていた。
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