水泡に帰す

薄暗い寂れた店内に、シャンプーや洗剤、キッチンペーパー、缶詰めが置かれている。

長いこと品出しをしていないのだろう。

何もない商品棚もしばしば目にする。

自宅から歩いて30分の商店は寂れた場所だ。

私は片栗粉とラムネだけ買うことにした。

「150円です。」

小銭を出すと、白髪が混じって古いエプロンを来た老婆の店主がたどたどしい手でお釣りを渡す。

「……ん?」

レジの付近に置かれた無造作な商品たちのうち、ものが目に止まった。 

「あ、これもください。」

外に出ると、日差しが強くなる。

民家と寂れた商店が立ち並び、閑散としている。

ブロック塀の細い道を歩いて、公園まで移動する。

塗装が落ちた滑り台と、ギシギシ音を立てるブランコ、持ちてがすっかり錆びてしまった鉄棒、申しわけ程度におかけた固まった砂ばかりの砂場、寂しい場所だが、やたら広かった。

ささくれのベンチに座り、さっそく試すことにした。

チューブを絞り、硬いストローに液体をつける。

「ふー!」

膨らまそうとするが、丸まって固まってしまい上手くできなかった。

本来はシャボン玉よりずっと長持ちする風船ができるはずなのに。

子供のときにやっていた遊びが、おとなになって同じようにできるとは限らないのか。

「それ、プラバルーン?」

「桜花。」

前に会ったときと同じように買い物を下げて、襟までボタンを止めた姿だった。

私は前回のことを思い出して戸惑ったが、

「うん。プラバルーンだよ。上手くできなくて。」

「一本使ってもいい?」

「どうぞ。」

桜花はチューブを少量出してから、伸ばしてストローに張り付けて、息をふきかけた。

大きなシャボン玉のように膨らんだプラバルーンが虹色に輝いた。

「わあ、すごい。」

「こんなの、フーセンガムと一緒よ、はい。あげる。」

手の上にプラバルーンをのせると、ぷわぷわ浮いた。

「センセなら、もっと大きなの作れるけどね。」

「勝谷先生器用なんだ。」

「うん。」

「……。」

「……。」

2人とも無言になる、気まずい。

うちの旦那があなたの目を抉ってしまい大変申し訳ありませんでしたーーと、謝罪するのも変だ。

何を話したらいい?

「センセに怒られちゃった。」

桜花が口を開く。

「なんで?」

「シュノは関係ないから巻き込むなって。オミトたちと一緒にいるのは偶発的なんでしょ?」

「確かにそうだけど……。」

「事情も知らないのにキツく当たってごめんね。」

「ううん、いいの。」

私は首を振った。プラバルーンを横に置いて、

「一緒に飲む?」

ラムネを渡す。

「うん、ありがと。」

ビニールを剥がして、蓋押してビー玉を瓶の中に落とす。

「おいし。」

桜花は微笑んだ。

そのとき、強い風が吹いた。

「あ。」

プラバルーンは遠くに飛んでいき、近くの木に刺さってゆっくり空気が抜けた。

「あーあ。」

「せっかく作ってくれたのに。」

「いいわよ、ダメになったらまた作ればいいの。」

「うん。」

私も桜花のマネをして、液体を良く吹いた。

手のひらサイズのプラバルーンができた。

「楽しいわね。」

「ええ。」

公園で20を過ぎた女が2人プラバルーンではしゃぐ姿はきっと異質だ。

「そうだ、これもあげる」

私は茶色の粉末を入れた瓶を渡した。

「いいの?」

「うん。たんぽぽコーヒーって勝谷先生好きかしら。」

「カフェイン嫌いかも。」

「たんぽぽコーヒーってカフェイン入ってないのよ。」

「あら、そうなの?」

他愛もない会話をしながら、桜花と1時間くらい遊んだのだろうか。

「さて、帰ろうか。」

「そうね。楽しかったわ。」

「私も。」

一人、また山奥へと戻る。

何だか今日はいい日だ。

出会いは最悪だったが、悪くない繋がりかもしれない









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る