過去の女たち2
私がオミトと二人でドライブのは珍しい。
なぜか私の膝の上には卵パックがある。
「エアコン、つけようか?」
「いや、大丈夫。」
街中を走るが、車は一台もない。時計は朝4時を指しており、まだ薄暗かった。
「ねえ。オミト。」
「何だ?改まって。」
「私の前に付き合ってた人、いる?」
オミトは少し唸ってから、というより真面目に思い出そうとしていた。
「いなかった、と思う。一緒に過ごしてて、それなりに色々と経験した上で確認するか?普通。」
そういう作業は告白と呼び、ごく一般的なことなのでは?そう思ったがツッコまなかった。
「そう。」
「急にどうした?」
「あ、ううん。」
桜花と和琴、勝谷の話を聞いているうちにオミトの過去を知りたくなった。
ただそれだけだったが、何となく言い辛いと感じた。
「まーなんだろうね、あのときのことがなかったら、人生で結婚することなかったとは思う。ーーというかさ。」
空気が一変する。
「勝谷のとこ行くようになってから、何か様子変じゃない?」
バレてる。私はおとなしく白状することにした。
「勝谷先生から一緒に住んでる女の人らの話聞いたわ。」
オミトはさらっと受け流して、
「あー、レズビアンでもないのによくやるよな。知ってる?まだ別の所にもたくさんいるんだよ。」
「オミトの殺し損ねた人たくさんいるの?」
「いや。俺以外にも、結構あるんだよ。そのケース。」
オミトは指を一本ずつ折る。
「人を殺すってのは直接でも、間接でも関係なく大きな負債を負うことになるんだ。ーーその覚悟がブレるなんてよくあることだよ。」
「俺だって昔はそうだったんだから。」
「オミトは、どうして殺し屋になったの?」
「久遠に付き合ってただけだよ。」
意外な言葉に目を丸くしてると
「驚いてる?」
「え?ああ、うん。」
「楽しんで仕事してるからね、それでも。」
「……。」
拷問が趣味の人間なら殺し屋も楽しめるのかもしれない。
「それにしたって最近はキャンセルが多すぎる。ーー特に俺たちは。」
「リツコたちにも文句言ってなかった?」
「ああ、もうアイツらとは仕事をしない。」
「……会えなくなるの?」
「嫌か?」
「ううん。別に。」
そんな話をしていると、広い空き地についた。
「卵パック持って降りて。」
日に当たってキラキラと輝いているところがある。いや、よく見ると湯気が出てる。
「……?」
温泉だった。胸の高さまである、石造りの桶に温泉が湧いている。
入浴するにはいささか小さい上になぜかオレンジ色のネットが浮かべてあった。
「温泉卵、作るんだよ。」
オレンジ色のネットに卵を入れしばらく待つ。
車から、小皿と割り箸と出汁醤油を取り出した。
卵を割ると、綺麗な温泉卵が出てきた。
「わ!」
一口食べると、とろけた卵が口全体に広がる。
オミトはそれを見ながら、自身も食べ始めた。
「美味しい?」
「うん。とっても。」
卵の2個めをつける。
「よく知ってたね、こんなとこ。」
「昔、ある人に教えてもらった。」
「それ、他の女?」
冗談のつもりだったが返事がない。
オミトの方を見ると、固まっていた。
「ホント……だったの?」
「う、うん。」
目線が明後日の方を向いている。
「……恋人はいなかったって聞いたから、愛人?」
「どこから来たの、その発想?」
「違うの?」
「いや、違わないかもしれん……。」
オミトはしばし無言だったが、
「勝谷のところに和琴っていただろ、あの子だよ。」
勝谷の家の2階にいた、気が触れた女。
「いや、あの子は桜花と一緒で……。」
「あー、桜花ね。さっき話を聞いたと言ってたのもあの子?」
「……うん。」
桜花は昔オミトに殺されかけている女。
オミトに人生をめちゃくちゃにされて、怒りや憎しみよりも先に恐怖が来るらしい。
和琴も同じはずだ。
「和琴はさ、3年前まで仕事手伝ってくれてたんだよね。」
「仕事の、手伝い?」
「手当とかしてくれてたんだ、看護師の卵だったかな。勝谷の元で働いていた。」
「久遠とも仲が良かったんだ、たまにこうやって遊んだり……今思うと恋人だったかもな。」
「それが今はなんで……。」
「薬漬けにされたんだよ、誰か知らんが和琴を拉致ったんだ。」
オミトは温泉卵をまた割る。
「久遠と2人で1ヶ月ずっと探してた。やっと見つけた和琴は、コンテナの中でくたばりかけてた。」
「勝谷の所連れて帰ってすぐに看病したが、手遅れだったみたいだな。」
「手遅れ……?」
「戻らないんだ、精神状態が。」
「……。」
「だから、今日も勝谷とこで面倒見てもらってる。」
「……。」
オミトのこと、まだ何も知らなかったのか。
湯気か立ち込める中、2つ目の温泉卵をかきこんだ。
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