帰宅
曇り空の中が広がる中、光が差し込む。
天使の架け橋というのだろうか。
美しい景色を見ながら、考え事をする。
オミトと久遠がいなくなって1ヶ月、私は1人この家で生活していた。
たまに家の中には封筒にはぎっしり詰まった札束とメモが置かれていた。
メモには他愛もないもので、久遠と一緒に元気でいることが書いてあった。
タイミング的にそろそろ札束とメモが置かれる時期だ。
家の中に入ると封筒を置いているオミトがいた。
「あ。」
「シュノ……。」
「オミト、元気にしてた?」
口から出る言葉の冷静さに驚いた。
「何とかね。」
よく見ると少し痩せた気がする。
「久遠さんは……?」
「伊緒奈のところ。生きてるよ。」
思わず駆け寄って抱きしめる。
骨ばった手がさらに固く感じた。
「すぐ行くの?」
「もう、全部終わったよ。全部な。」
「じゃあ、どうして封筒があるの?」
「勝谷のとこ行ってくる、少し無茶したから。念のため2,3日入院してくるからその入院費。」
フラフラとした足取りで歩こうとするので、叫んだ。
「わ、私も行く!」
「まあ、別にいいけど……暇だと思うぞ?」
「気にしない、一緒にいたい。」
「じゃ、すぐ行こうか。」
二人で車に乗り込む。
変わった不快な匂いがした。気になって後ろを向くと、後部座席のシートが変色している。
オミトは、察知したのか車の窓が開ける。
「ごめん、掃除するどころじゃなかったから臭いかも。気分大丈夫?」
「……うん。」
私はうなずく以外やることがなかった。
勝谷の家につくと、家の前に桜花がいた。
「瀕死だって聞いてたんですけど、元気そうでしたね。ささっとくたばってくれると幸いです。」
「そんな笑顔で言ってくれるな。冗談に聞こえねえよ。」
「本気ですけど?センセはこちらです。」
桜花が案内すると白衣を着た勝谷がいた。
「あら、シュノもいるの?とりあえず部屋で診察しましょ。桜花、コーヒー出してあげて。」
「はい。センセ。」
オミトと勝谷は立ち去った。
「コーヒーです。」
「ありがと。」
私は一口飲むと、吹き出した。
「濃すぎない?というか粉っぽい。」
マグカップの底にインスタントコーヒーの粉が大量に残っている。
「……。」
反応がないので、桜花のほうを見ると震えた。
「どうかしたんですか。」
「桜花……ええと。」
桜花は私の前に立って顔を近づけると、首を撫でた。
「よかったですね、旦那さん帰ってきて。」
前回会ったときと変わらない、でも何だか異質な雰囲気を感じた。
「あそこまでやっておいてどうなるんでしょうね?」
意味がわからない。
「この先も何も起こらず終わるとは思えませんけど。」
「桜花どうしたの?」
「ーーチュンさんって方、シュノのお知り合いでしたっけ?」
「チュンさん?」
思いがけない名前を聞いた。
「殺したそうですーーあの男が。」
「えっ。」
その時部屋のドアが開く。
オミトたちが戻ってきた。
「あの状況で帰ってこれたの奇跡よ。アンタも総合病院のほう行って。」
「はいはい、わかってる。わかってる。」
「勝谷先生……。」
「ああ、シュノ心配しないで。わりと生きてるから。」
「わりと?」
「ま、後は検査してからね。」
勝谷は軽く言ったが、私は心配になった。
「さ、出掛けるわよ。」
「もう運転したくないんだけど?」
「病人だし私が運転するわよ」
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