付き添い生活と入院
「シュノ、オミト?」
朝、病室のソファーで本を読んでいると久遠が起きた。隣でオミトが寝息を立てている。
「……。」
「伊緒奈の部屋。勝谷先生がベッド持ってきてくれたの。」
「帰って、きた。」
「峠越えれるか微妙だったらしいけど。痛くない?」
オミトの言い方からただ単に伊緒奈にお見舞いしているだけかと思っていた。
しかし、言ってみたらこの病院に緊急入院していたようで、さきほどまで意識はなかった。
私は特段することもなかったが、心配だったのでずっとこの2人の付き添いをしていた。
「うん、大丈夫ーーっ。」
腹を抑える。ズキズキするのだろうか?
「勝谷先生呼んでこようか?」
「いい。それより、オミトは?」
寝ているオミトを心配そうに見た。
「検査入院だって。今は寝てるだけだから。」
「そうか。」
久遠は隣の伊緒奈を見る。
伊緒奈はいつも通り静かに寝ていた。
「部屋、ここ、空いてなかった?。」
「そもそも他の病室と隔離したかったみたい。」
「……それも、そうか。」
私は果物ナイフを取り出し、買ってきたキウイやリンゴを剥き始めた。
「ねえ、チュンさん亡くなったと聞いたけどどうなったの?」
「殺した、2人で。」
「どうして、そんな急に。」
「うっ……。」
オミトがゆっくり目を開ける。
「気持ち悪……。」
何だか落ち込んでいるように見えた。
「オミト、平気?」
「平気だよ……とりあえずは。」
私はオミトの隣りに座った。
嫌な予感がして背中を擦った。擦り続けた。
「何か話していた?」
「チュンさんのことをちょっとね。」
「殺しの、理由。」
オミトは、顔色が悪いまま答えた。
「チュンさんにさ、ずっとハメられてたみたい。」
「?」
「俺たち、現場のとき、だけ、わざと金品、持ち帰ったり、掃除、雑に、してた。」
「……どうしてそんなことを。」
「チュンさんの会社の人、殺したことあったよね。」
「うん。」
「やり返したかったらしいよ?」
「恨まれてた、ずっと。」
「チュンさんとしては、俺たちが会社から印象が悪くなればいいって思ってたらしいけど。」
「……チュンさんが話してきたの?」
そんな内容をあっさり喋るわけがない。
「いつもの仕事と同じやり方だよ。」
つまりは最後のほうは拷問まがいのことをしたんだろう。
オミトは笑って話してたが力なかった。
「この業界、こういうの普通、なんだけどさあ……。」
言葉が続かない。
少なからずオミトにとってはダメージが来ることだったようだ。
「コンニチハ。」
「屑ども生きてるー?」
ノックもなく入ってきたのはメイメとリッコだった。
ベッドに付属しているテーブルに、辞書くらいありそうな札束を立てた。
「なにこれ?治療費?」
オミトは鼻で笑ったが、リッコたちは至って真面目な顔をしていた。
「このたびは、ウチの、人がメイワク、かけ、ました。」
「うちの人っていうのは普通は配偶者に使うけどね。」
「ハイグウシャ?」
「パートナーのこと。」
リッコはメイメに丁寧に説明していたが、イマイチ理解していないようだった。
「で、結局どうなの?」
「チュンさんは掃除屋の代表だったからね、会社としても謝っておかないと示しがつかないのよ。」
「シャザイノ、キモチ。」
「おいおい、安く見られたな。」
オミトは悪態をつくが、久遠は札束を無心で数え始めた。
「こっちはしばらく休業せざる得ないんだが?」
「あら、それはご愁傷さま。」
睨むオミトに対して、リッコは嘲笑した。
「オミト、怒っても、慰謝料、増えない。」
久遠が嗜めると、オミトは少し落ち着いたようだった。
「どっちみち会社とはこれで付き合いはなくなるな。」
「まあね、案件受ける気ないでしょ?」
「ああ。お前たちと仕事するのはごめんだ。」
「メイメ、行こう?」
「モウ、イイノ?」
オミトはため息をついた。
「……元気でね。」
リッコはボソッと言ったが、オミトは聞こえないフリをした。
「はあ……やっといなくなった。」
オミトがリッコに悪態をつくのは平常運転だが、疲弊していた。
「仕事、どうするの?」
私はここで殺し屋をやめてくれるかも、と一瞬期待した。
「どうするも何も、これで晴れて無職だよ。」
オミトは両手を広げて、首を傾げている。
「保険、は、ない。」
「まずは治療しないとね。」
「その後、殺し屋、再開。」
「だね、どこに営業かけよっか?」
どうやら本人たちにその気はさらさらなかったようだが。
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