『準備』
「じゃあ、シュノ。行ってくるから。」
「うん、いってらっしゃーい。味噌汁作って待ってるね!」
明るく声をかけるシュノに不安を覚えた。
アボカドに、パプリカに今度は何を入れるつもりなんだろうか。
「……できたら普通のが飲みたい。」
「わかった。待ってるね。」
シュノは笑顔で俺と久遠を送り出した。
車に、乗り込み運転する。
現場までは1000km以上ある。
それを久遠と交代しながらずっと運転し続ける。
1日経って現場へ到着した。
車内でホッチキスで止めた紙束をペラペラめくった。
「会社ーーリッコたちからの、案件?」
「ああ、そうだよ。」
「受けない、はず、では?」
「今回で最後だよ。急にとんずらするわけにもいかがないしね。」
「付き合い?」
「ま、そういうこと。リッコには世話になっていたからな。」
リッコには確かに世話になった。
俺たちが殺し屋になったばかりの頃から今日まで便宜を図ってくれたのは確かだ。
「ターゲット、どんな人?」
久遠は助手席で、資料を見ながら訊ねる。
「若い女だよ。3枚目に顔写真が載ってる。」
「美人。」
久遠はターゲットの顔を見て関心していた。
長い巻き髪に、口元のホクロが素敵だった。目鼻顔立ちがくっきりしている。
「こんな美人、やったら、片付け、面倒なのに、オミトに、仕事任せるの、頭が、悪い。」
「酷いな。そのとおりだが。」
俺は、座席を倒してソファーに寝っ転がった。
「でも、こんな仕事頼めるの俺たちしかいないらしいよ?」
「芝村、兄弟、は?」
「こないだ、変死体が浜に打ち上げられてたってさ。」
「画面の中の彼女と仲良くしてる、ロソゾは?」
「津波か何かに巻き込まれたって。」
「古株、リバは?」
「川で見つかって、意識不明。」
「リッコの、同期の、ええと……。」
「たっちゃん?やらしてコンクリ詰められていたって。」
「殺し屋、沈める、流行ってる?」
ただの環境汚染だと思うんだが。
「……コンクリ、俺たち詰めたほうが、良さそう。」
「わかる。何しちゃったんだろうな。」
「タツ、いい奴だった。」
「俺たちのこと、暴言も吐かずに接してくれたもんな。」
「墓参り、今度行く?」
「ああ。」
雑談をしていると、500m先に今回のターゲットの女の姿が見えた。
「出勤かな、居酒屋のバイトの時間だし。」
「尾行、する?」
「そうだな、狙い目はバイト終わりか。あの子、休みいつだっけ?」
「不定期。ほぼ毎日働いているから時間かかりそう。」
「勤務態度は?」
「だいぶ良い。多分、急にいなくなったら、心配される、レベル。」
「……失踪でごまかせないかな。」
「借金あった、みたい、だから、それで、ごまかせるかも。」
「借金は?」
「全額返金。」
「借金で飛んだことにするのも、厳しそうだな。」
「自宅放火?」
「あー、ありだけど。目立ちすぎる。」
「1週間、調査してから、考える?」
「そうだな。」
俺は目立たない色のジャケットを羽織る。
「しっかし、面倒な依頼だな。ーーこれでキャンセルなんてされた日は溜まったもんじゃない」
「それ、フラグ。」
「おいおい、勘弁してくれよ。」
俺は少し困った顔をした。
「そろそろ行こうか。」
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