浜辺とカーチェイス。

「〜♪」

「シュノ、機嫌がいいな。」

久遠が運転をし、私とオミトが後部座席に乗っていた。

荷物スペースには、大量の苗に柵に植木鉢にスコップがぎゅうぎゅうに詰められている。

全てオミトが買ってくれた。

一部は、積みきれずに私の膝に置いてある。ナスにトマト、オクラ、トウモロコシーーこれからの季節に必要なものだった。

久遠が、『それは買いすぎなのでは?』と目で言っているが気にしない。

「それ、どこ、植える?農家、にでも、なるの?」

「家の前の畑!まだまだ、こんなんじゃ足りないわよ。」

「もう、すでに畑、埋まってる、気がする」

「畝を増やせばいけるわ。裏庭もあるし!」

オミトが怪訝な顔をする。

「畑まだ増やすの?水やるの大変じゃない?」

「ホースに穴を空けて畑の間を通すから大丈夫!」

「……ん、そっか?」

オミトはよく理解していないようだが、どうでもよかった。

そんな話をしていると、車が揺れる。

「うわっ!」

いきなり車のスピードが上げた上に、急に転回して道を変えた。

私は思わず抱えていた苗を手放す。

どさっと土がシートこぼれた。

「どうした?久遠?」

オミトが、バックミラーをチラ見すると露骨に嫌なを顔した。

「おいおい……いつからだ?」

「さっき、気がついた。ずっと、つけてたかも。」

「巻ける?」

「五分五分。」

私は何事かわけが分からず、目を白黒させる。

さらにスピードが上がり、坂を映画のワンシーンのごとく高速で下る。

慌てて苗と入っていた土を拾う。

が、思いっきり床に落ちてまた土が散らばった。

バックミラーを見ると、後続車両がぴったりと後にくっついていた。

どうやらこれが原因らしい。

「巻けた?」

久遠が焦りながら訊ねる。オミトは後方を確認し、

「いや、これ無理だ。この辺りで止めてくれ。」

「ん。」

2人ともため息をつき、近くの浜辺にある駐車場に停める。

そして、車を降りる。

相手も真横に車をつける。どうやら向こうも2人乗っているらしい。

運転席にいるスーツを着た女性を見て、ピンときた。

「あれ、リッコよね?」

「ああ!面倒な女だな。」

オミトは不機嫌そうに答える。相手も車から降りた。

リッコーーオミトに依頼を持ってくる女らしい。リッコ自身も殺し屋で、凄腕のスナイパーだと聞いた。

「おいおい、何だ?同業者追っかけ回して。」 

オミトは明らかに帰りたそうな表情で抗議する。

「クソトロい車がいたから遊んだだけ。」

リッコは煽るように言う。

そろそろオミトが手を出しそうだ。

「ま、ちょっと用があってね。」

リッコが私を見て嬉しそうに笑う。

「リッコさんも元気そうでーーうぐっ?!」

いきなりリッコは私を抱き寄せて顔を大きな胸で挟む。

「やーん、かわい。オミトなんて捨ててうちに来ない?」

柔らかい感触が顔全体を包み、筆舌に尽くしがたいような優しさに包まれる。

あきらかに大きい。このあとどうされてしまうんだろうか。

私は、しばらくその感覚を堪能していた。

「おい、何うちの妻取ろうとしてるんだ。バラすぞ?」

オミトは普段よりオクターブ低めな声で、言う

リッコは面白がってからかう。

「こわー。そんな猿みたいな思考の男に言われたくなーい。胸押し当てて、この反応なんだからどうせ満足させてないじゃない?」

「あ?」

オミトの目が本気になってきたので、慌ててリッコから離れる。

「で。用は?」

久遠は冷静にリッコに聞く。

「現場の金品がなくなるって話ーー知らない?」

「知らん、そもそも俺は金より女だから。」

「報酬で。満足。」

「まあ、そうよね。変態とその補佐よね。」

オブラートに包むという発想はないらしい。

「なぜ、今そんなこと聞いてくるんだ?昔からよくあることだろ?」

「現場で、お小遣い稼ぎは。よく聞く。」

私は話が見えておらず、オミトの隣にいた。

「会社から度を越している指摘があったわ。」

「俺らが泥棒とでも?」

あきらかにオミトの機嫌が悪い。

「アンタらは強姦魔なだけでしょ。全員に聞いて周ってるだけ。気を悪くしないで。」

「ああ、そうかよ。」

私はしゃがんで、足元に歩く2匹のカニを眺めていた。横歩きするカニは、海を目指していた。何か食べ物でもあるのだろうか。

3人をほっといてカニの親子を観察する。

オミトたちは、そのあとも現場がどうとか、盗みの状況がどうとかずっと話し込んでいた。

数十分間経ったところで、

「他の人のことも、何も知らない?」

「さあな。要件聞いている限り、電話で済む話じゃないか?」

「あら?私たちの電話は出てくれるの?」

「いや、着信拒否する。」

「それもそうよね〜。」

「で、帰っていいか?」

「ま、今日は情報共有したかっただけだから。またね。」

「じゃーね!シュノちゃーん!」

「またね……?」

嵐のごとく、リッコは去っていった。

オミトはいきなりしゃがんで叫んだ。

「やっーと!いなくなった。」

そして、深呼吸をして立ち上がる。

「さっさと、帰ろう。」

私たちは車に戻ると、散らばった土を拾って片付けた。

「この野菜の苗、大丈夫なのか?」

「う、うん。植えてみないとわかんないけど。」

「悪かった。」

久遠は謝るが、私は首を振る。

「ううん。ところで、何の話だったの?」

「ああ、さっきの?大したことないよ。」

「じゃ、リッコが何でわざわざ来てたの?」

オミトはしばらく考えて

「現場で泥棒が出たらしい。」

「泥棒?仕事が終わった後にお金とか盗むの?」

「そうそう。」

「ダメなものなの?」

「大体は黙認されてるんだけど、そのために、家の中めちゃくちゃにしてたみたい。」

「あきらかに度、越してた。俺はたちは、殺し屋で、強盗じゃない。」

殺し屋としての矜持でもあるのだろうか。

「ま、そのための事情聴取だったんだよ。リッコは会社の所属だからね。」

「オミトたちは違うの?」

「俺らは、フリー。」

「誰からの依頼でも受けるし、会社からの依頼もあるから無関係ではないけど。」

土を片付け終わると、手をパンパンと振り払った。

「何だか面倒くさそうなことになりそうね。」

「殺し屋なんて、そんなものだろ。ルールがあるのは、普通の会社勤めと一緒なんじゃない?」

オミトは力なく笑った。

「強盗の犯人、見つかったらどうなるの?」

「状況にもよるけど、良くて射殺かな?」

「拷問。金の場所、答えるまで。」  

「ーーま、俺らには関係ないけど。」

「帰ろっか。」

オミトたちにとってはどうやら日常会話のようで、特に気にすることもなかった。

空はすっかり夕焼け色になっていた。






















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