記録
早朝、ガサゴソ音がして目が覚めた。
隣にいるはずのオミトがいない。
壁際の久遠は毛布にくるまって、寝息を立てている
「何してんの?」
リビングに行くとオミトがソファーの上でビデオカメラを布で丁寧に拭いていた。
まだ日もロクにのぼってないのに。
「今度使うから、手入れしてるんだ。」
「ふーん?」
よく見ると、少し欠けて日々が入っているいる。
「どっかで落としたの?」
「昔、仕事先で使ったやつだよ。まだ全然使えるし、新しいの買いに行くの面倒。」
「そういうもん?」
「何、してる?」
久遠も降りてきた。
「みんな早起きね。」
「見舞い、今日も、行こうと、思っていて。つい、早起き。」
「伊緒奈さんのとこ?」
「うん。入院で、足りないもの、あるかも。」
「勝谷が、何時でも来ていいって言ってたぞ。」
「……さすがに、早くない?」
ちなみに時刻は朝4時だ。
この時間に行ったら勝谷、ブチ切れるんじゃないか?
「じゃあ買い物してから行く?24時間スーパーなら開いてるし。遠いし、時間経つだろ。」
「うん。シュノ、は?」
「私は眠いからいいや。」
「そうか。」
あくびをする。
伊緒奈だって知らない人間にはまだ会いたくないだろう。
「じゃ、行ってくるよ。」
「ええ。」
オミトと久遠がいなくなった部屋で、ポツンとビデオカメラが残される。
私はそれを手に取った。
そして適当にボタンを押す。
「これが録画かな?」
意味もなく家の中の景色を取る。
ずっとビデオカメラを持ったことがなく、憧れていたのだ。
「わあ。」
カメラ越しの景色は別世界みたいだ。
私はさっき録画したビデオを見ようと、ボタンを適性に操作する。
しかし、全く知らない街が写っていた。
データが残っているようだ。
「?」
スーパーで買い物をしたり、カフェで何人かと話したり、講義室みたいな部屋で授業を受ける女がいた。
よくみたら私が知っている女だ。
「桜花?」
怪我もしてないから気がつかなかったが、どのファイルにも桜花がいた。
どの桜花も、こちらに気がつく様子がない。どうやら、ビデオカメラで隠し撮りされていたようだった。
そして、見ているとある録画が目につく。
血塗れで倒れている桜花と、オミトの声が入っていた。
『ーーは君のことが好きでした。ずっとずっと見てました。でも、あなたは彼を選んだ。だから、今日はちゃんと思いを伝えます。僕のことはわかっていてほしいから。』
「どういうこと?」
困惑する。
オミトは桜花が好きだった?
わけがわからない。
だが、これはイマイチやる気がなさそうな声に違和感があった。
「あ。」
ビデオカメラが、オミトを映す。
オミトは手紙を読み上げていた。
『君の遺体は僕が引き取ってーーえ?』
『中止、だって。』
ビデオカメラは床に置かれたようで、コンクリートしか写っていない。
『は?もう始めてんだけど?』
『依頼主が、金払えなかった、らしい。』
『ノッてきたんだけど?』
『対象、殺すと、俺等も、死ぬ。契約、守らなきゃ。』
『……とりあえず勝谷に連絡するか。』
携帯の発信音がする。
『うわ、繋がらない。』
『これ不味くないか?』
『勝谷のところ、直接行く?』
『だな。おい、生きてるか?ーーああ!クソ!』
オミトはひたすら暴言を吐いていた。
「……。」
桜花は、『オミトは殺さない相手には優しい』と言っていた。
オミトは手紙みたいなものを桜花の前で読んでいたが、恐らく依頼人のものだろう。
誰かに依頼されて、殺されそうになったが急にキャンセルとなったときの話。
その一部始終がこのカメラに写っていた。
「寝よ。」
考えてもわからないことよりも今は二度寝が先だ。
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