記者

朝からオミトと久遠はでかけているようだった。

私はまだ1度も話していないが、伊緒奈は順調に回復しているし、オミトは仕事を楽しんでいるようだった。

その日は何事もなく夜になった。

「ただいまー!シュノちゃあん。」

玄関を開けるなり、オミトが抱きついてくる。

アルコールの匂いが鼻につく。

「キスしてもいい?それとも。」

いきなり服を脱がせようと、Tシャツの裾に手をかけたので思わず平手打ちをした。

「いたーい。」

特に気分を害することもなくケラケラ笑っていた。

「ほら、水上げるから!座って!」

オミトを椅子に座らせると大人しくなった。

「久遠さん、飲ませたの?ダル絡みするからやめてほしいんだけど。」

「いや。コイツ。原因。」

「こんばんはー。お邪魔しますー。」

久遠が連れてきたのは30代くらいのメガネの男だった。白いワイシャツを着て、愛想の良い笑顔を浮かべる。

「あなたは?」

「はじめまして、私。フリーライター山佐と申します。」

名刺を差し出す。『月間ヌーでコラム執筆中』と書かれていた。

「ご丁寧にどうも。」

月間ヌーって確か『衝撃!黒幕は大統領!宇宙人が我々にしてきた警告とは?』とか『潜入!ツチノコ帝国の謎!』とか『地下人を呼び出す儀式!』みたいなオカルト雑誌のはずだ。

オミトたちのことなんて書くことがあるのだろうか。

「はい、裏社会の日常ということで。お話聞かせていただきたいんですけどよろしいでしょうか?」

やっぱり、雑誌間違えてないか?この2人を題材にして書ける記事なんて『絶対吐かせる!正しい拷問のやり方!』とか『殺し屋の生活!大公開!』くらいじゃないのか?

「私は一般人ですけど……?」

そう言いながら、殺し屋の妻は本当に一般人なんだろうかと疑問に思った。

「いえ、せび奥様にも話がお聞きしたくて!」

「はあ、まあ。いいですけど。」 

「寝る、適当に、相手、して、おいて。」

「シュノちゃあん、おやすみー。」

久遠は後で、オミトを引きずって部屋に戻っていた。

「で、聞きたいことは?」

「まずは旦那様のお仕事をどうお考えですか?」

「何も。最初からオミトは殺し屋でした。」

「あれ?て、ことはどこで知り合われたんですか?」

「拉致されてここに来ました、結婚は私の意思です。」

「無理矢理連れてこられたのになぜ?」

「あそこでそうしなければ、私も裏にある墓の住人でした。」

「何か深い事情がおありのようですね?」

私は立ち上がった。

「お茶、出してませんでしたね。」

やかんに汲んできた水を入れて火にかける。

「そんな、おかまいなく。」

ポットに紅茶の茶葉を入れ、沸騰したお湯を、ゆっくり注ぐ。

「オミトとはなぜ知り合いに?」

「まあ、そこら辺にちょっとしたコネがありまして。」

多分、山佐もオミトたちと同じロクな人間じゃない。一瞬、一般人かと思ったが期待外れのようだ。

「どうぞ。」

私はティーカップに紅茶を注いで彼の前に出した。

「ありがとうございます。」

「旦那さんは普段どんな方ですか?」

「普通の人ですよ、どこにでもいる、青年です。」

紅茶を口につける。

「ーー趣味と仕事さえしなければ。」

「趣味というのは……?」

「人間の苦痛な顔にするのが好みらしいです。」

「ああ……。」

山佐は何かを察したようだった。

「その、旦那さんとの馴れ初めを詳しく話をしてくださいませんか?」

「長くなってもいいなら。」

「ええ、大丈夫です。」

「じゃあ、本当に出会ったときから。あれはーー」





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