不倫する女

今日はオミトの仕事から帰ってくる日だ。

珍しく2週間くらい家を開けていたので私は内心ウキウキしながら待っていた。

「ただいま……。」

玄関までかけると、オミトがしょんぼりしていた。

「夕飯あるよ。今日は珍しく玉ねぎと油揚げのごく一般的な味噌汁ーー。」

「ごめん、ちょっと寝る。」

オミトはさっさと寝室に行ってしまった。

私は啞然としていると、ダルそうにした久遠とジーパンと黒Tシャツの女性が家に入ってきた。

女性の方はで長いふわっとした巻き髪をまとめており、口元にホクロがある。

年は私と同じくらいだった。

「えっと、何かあったの?」

「殺しの、キャンセル。リッコ、来る、相手しといて。」

久遠はふらふらしながらソファーに座ると、すぐに真上を向いて寝息を立てた。

若い女がきょとんとして、私を見ていた。

「よかったら味噌汁食べますか?」

「んー。じゃあお願い。」

年はオミトと同じくらいだろうか?

お椀を渡すと、彼女は味噌汁を一口で飲みきった。

はっきり言えば品はない。

「どうしてここに来たんですか?」

「あれ?アンタはアイツらの仲間じゃないの?」

私は話していいのか迷い、返答に困ったが、オミトたちが警戒してないようだったので、

「んー、仲間というか。身長高い方の妻です。」

「えええっ?!奥さん!あんな奴の?脅されてるの?!」

オミト、誰に聞いても評判これだもんな。

この人も何かされたんだろうな。

一瞬遠い目をしたが、弁明する。

「自分の意思です。一応。」

「そういうもんなの?」

「普段は優しいですよ……身内には。」

私はお茶も湯呑に入れて出した。

「そういえば何でここにぃるんですか?」

女はふーと声を出して、少し私の話をしてもいいかと言うのでうなずくと

「不倫、してたのよね。私。」

「はあ。」

「慰謝料も払ったし、あの人とももう何年も連絡してない。でもね、あの人の奥さん許せなかったみたい。」

「じゃ、じゃあーー。」

「奥さんがね、殺しの依頼をしたって、さっき聞いたわ。」

「でも、何でここに?」

女は長い髪を指でくるくると巻き口角をあげた。

「依頼、キャンセルしてもらえたからここにいるの。」

不敵な笑みを浮かべる彼女は勝ち誇っていた。

「それよりも。あなたは何でこんなところに住んでいるの?」

「旦那の持ち家です、ここ。」

「日常生活とか不便じゃない?やることある?」

「買い物は旦那たちが手伝ってくれますし、そんなにですよ。それに畑とか魚釣りできますし。」

「え?畑?あの外にあったハーブの類いってアンタが育てたの?」

「はい、そうですけど。」

「へえ、よくあんなに綺麗な畑作れるね。地植えなら雑草の育ちいいから大変でしょ。ハーブも変な交配してないし。」

「え、ええまあ。それは。」

私はちょっと嬉しくなって、冷凍庫にあったハーブを入れた氷を何個か取り出し、背の高いグラスに入れ、ソーダを注いでストローを差す。

「あら、これ飲んでもいいの?」

「ええ、どうぞ。」

女は嬉しそうに飲んだ。

「名前を伺っても?」

「ああ、アタシ?野乃香っていうの。アンタは?」

「シュノです。」

「そう。よろしくね。」

車のエンジン音がする。私が玄関に向かう前に勝手にドアが開けられた。

「あ、こんばんはー。シュノちゃん久しぶりー!」

リッコが私に駆け寄ってきた。

「貴女が斎藤野乃香ー?」

「うん、そう。」

「竪川様がお待ちです。」

仰々しく睦月は傅く。

「さ。行くわよ。シュノちゃん。ばいばーい。」

睦月はさっさと外に出た。

「じゃあ、またね。」

「ええ、また。」

私は2度と会うことはないと思った。

野乃香はあっさりいなくなった。

車が去るのを窓から様子を見ていたのかオミトがキッチンに来た。久遠も目を擦りながら、私の方を見ている。

「もうやだ。」

「ご飯、食べたい。」

オミトと久遠はそれぞれ文句を言いながら席に座った。私は、いつも通りにご飯と味噌汁を出すと2人とも食べていた。

「依頼のキャンセルって聞いたけど?どうしたの?」

久遠は物凄く嫌そうな顔をして、舌打ちをした。

私はこんな久遠を見たことがなくて、純粋に怖かった。

「ご、ごめん。聞くのよくなかったわ。」

震えて泣きそうになる。

オミトは久遠の頭を小突いた。久遠はオミトの態度を見てハッとする。

「さっき、よくなかった。すまん。」

久遠は素直に謝罪する。

「3日くらい、ほぼ不眠不休で見張ってたのにキャンセルされたからな。俺も不愉快だ。」

久遠はうなずく。

「ここ数年キャンセルが増えてきた。」

「時代の、変化?」

「さーてね。ただ、俺たちも立ち回りは考えないとね。」

「会社、関わり、なくなった。もう、関係ない。」

「ああ、そうだな。なあ、シュノ。」

オミトが手招きするので、席に近寄ると私を抱きかかえて膝の上にのせた。

「リゾート地でも行かない?今更だけど、新婚旅行でも行くか。」

久遠は、本棚からパンフレットを取り出し机に広げた。

「俺、離島がいい。それか、都会で、マンスリー、借りる?」

「海外でも行く?」

「パスポート、どうする?」

「偽装かー、面倒だな。チュンさんとかツテないかな。」

「密航、する……?」

「それよりは車で好きなところ行く?」

久遠とオミトはわいわいと、話していた。

「シュノ、希望は?」

「えと、急な話だからちょっと考えさせて。」

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