結婚指輪2
彼らは結束バンドを外し、顔を氷で冷やしてくれた。
ワンピースを返してくれたので、そのまま着た。
「行こっか。」
オミトは私の手を握り、久遠は後ろにぴったりくっついて歩いていた。
まだ信用はされていないようだったし、またそれを隠す気もないようだった。
「君、名前は?」
「光野朱乃。」
「シュノ?変わった名前だね。」
「2人は?」
会話から知ってはいたが、何となく重たい視線をごまかしたかった。
「俺はオミトで、そっちは久遠って呼んでる。」
「これからどこ行くの?」
「俺たち家の1つ。」
「別荘でも持ってるの?」
「色んなところに、セーフティハウスがあるからね。」
「今から行くところはどんな家?」
「山の中にある。結構広いし、近くに川もあるから生活は悪くないよ。」
他愛も無い会話を続けると、またバンに乗る。今度は久遠が運転するらしく無言のまま運転席へ座る。
ここでも、拘束されることはないがしっかりと手首を握られている。
もし、ここで逃げ出したらさっきの続きだろう。いや、それ以上のことをされるかもしれない。
そう考えると、震えが止まらなくなった。
そもそも、家に連れて帰ったあと殺されるなんてことはありえないだろうか?
久遠の発言から、自宅のほうが遺体は処理しやすいらしい。
連れて帰った後で何されるんだろう。
騙し討ちで酷いことをおかしくない。
「大丈夫だ、騙したりなんてしない。」
顔に出ていたのか、オミトが声をかける。
「久遠、コンビニ寄って。」
「どうした?」
「買い物がある。」
近くのコンビニにオミトだけおりた。
車内に沈黙が訪れる。久遠は、バックミラーを使って私の様子を観察していた。
車内は重い空気だ。
「2人はずっと一緒にいるの?」
このままでいると気が狂いそうだった。私はなるべく会話をしようと質問した。
「10年越しの、付き合い。」
「友達?」
「仕事仲間。」
オミトと話して思ったが、久遠はどうやらほとんど単語か文節でしか会話をしないらしい。
「シュノ、学生?」
「ううん。フリーター。」
「オミトのこと、気に入った?」
「まあ。それに、結婚してくれるなら文句がない。」
「結婚、こだわるの、何で?」
「人生で一人くらいは結婚してみたい。このまま年取って死ぬだけなんて楽しみがないわ。」
「そう?」
「久遠さんには結婚願望ないの?」
「あんまり。」
そんな話をしていると、オミトが帰ってきた。
「はい、保冷剤。」
氷と取り替えて、私の顔に当てる。
「あと、飲み物何が好きかわからないからお茶。」
「ありがとう。」
そういいながら、コンビニのビニール袋に『薄い』とか『ぴたっと』とか何ミリメートルとか書かれた箱がいくつも入っていたのを見逃さなかった。
本当の目的はこれだったか、と気がついたものの無理矢理されるよりはずっとマシだと思った。
「さっさと家帰ろうか。」
海沿いからすぐに山道に入る。どんどん道が狭くなっていき、崖沿いに出た。
何個山を超えたのかよくわからない。
数時間は経ったと思う。
そして、小さな街を通り過ぎまた山道を入った。
空き家が何軒が続く。ここら辺は誰も住んでいない。
草木の間をぬって走り、大きな木製の家が見えてきた。
どちらかというと、ペンションのような見た目であり別荘地を思わせた。
雑草を踏みながら歩く。家の裏のほうに墓石のようなものがチラッと見えた。
「あれは?」
オミトは悪びれる様子もなく、
「俺たちで処理した人たちの墓だよ。」
処理って何だろと思ったがすぐ答えがわかったので黙る。
枯れた花が置いてあり、少し草も生えている。
「さ、入ってよ。」
「広っ……。」
玄関を開けると、キッチンつきのリビングの部屋があった。そして、各部屋への階段があった。
「お風呂入って。服は適当に持って来るから。」
キッチンの奥にある脱衣所に案内してくれた。
「うん。」
風呂場は大理石風の床に、ガラス張りの壁だった。
「ホテルみたい。」
どちらかというとラブホかと考えながら、シャワーを浴びた。
そして、泥だらけのワンピースからTシャツと短パンに着替える。
なぜか下着までサイズがぴったりだった。
風呂から上がると、食事が用意されていた。あたたかいスープに、ミートソースのかかったパスタ。久しぶりに豪華な夕食だった。
「食べる?」
「え、ええ。ありがとう。」
久遠は何も言わずに、珈琲を飲んでいた。
食事をしていると、眠くなってくる。
緊張が切れたのかもしれない、
「そっちの部屋寝室だから、寝とく?」
私はうなずき、ベッドに通される。
寝転ぶと、オミトの匂いがした。
普段は彼が使っているのだろう。
「疲れた。」
もう何も考えず、眠ってしまった。
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