結婚指輪3

外が明るくなっていた。

起き上がると隣にオミトがおり、なぜか壁にもたれ掛かるように久遠が寝ていた。

「起きた?」

欠伸しながらオミトが聞いてきた。私はゾッとして、自分の衣服が乱れてないか確認した。

着替えた後と何も変わってない。ブラのホックをわざと1段外したままにしてたが、それもそのままだった。

「さすがに寝てる妻にそんなことしないよ。」

「……妻?」

「結婚しただろ、昨日。」

「……!」

殺されそうになったから、結婚してくれと口走ったんだった。

その後すぐにここに連れて来られたから、特に意味とか考えてなかった。

この男の中では、結婚後の同居のつもりなんだろうか。

「そう、だったね。」

「実感ない?」

うなずくと、

「俺も。」

と笑われた。

「今日は一緒にいてやりたいが、用事がある。久遠と過ごしてくれ。夕方には帰るから。」

オミトは私の顔に手を添えて微笑んだ。

先程までの私ならきっと、悪寒を感じてただろう。

でも今は温かさを感じてた。

ストックホルム症候群というものだろうか?

監禁などを通して、犯人と被害者の間に恋愛感情が生まれることがあるらしい。

どちらにしろ、この状況なら不安を感じ続けるよりマシだ。

「帰ったら色々話して、あなたのこと。」

「わかった、行ってくる。」

オミトはジャケットを着て部屋を出ていった。

「移動できる?」

いつの間にか、久遠が目の前に立っていた。

「わ!いつ起きたの?」

「ずっと。」

「寝てないの?」

「問題ない。」

「自分の部屋とかベッドは?」

「ない。いつもここで寝てる。」

久遠は、私に部屋を出ろと合図した。

外に出ると、昨日とは別の車に乗せられた。

「どこ行くの?」

「買い物、必要なもの買う。」

「そう。」

私たちは、日用品や食材を近所の店で買った。今日の久遠とは驚くほど、会話が続かなかった。

「行きたいところある?」 

「できたら自宅。」

久遠は無言で車を走らせる。

「あ、場所はねーー。」

私はカーナビを操作しようとするが、久遠に手を払らわれた。

「知ってる。」

「どうして?」

「調べたから。家族構成も。今1人で。暮らしていることも。」

「……。」

「身寄りのない、人間。拉致るほうが、楽。」

久遠は今までつけていなかったBGMをつけた。

「成人して、偽名使ってる女。いなくなっても問題ない。」

「……それ、どうして知ってるの?」

「オミトの、趣味。」

「趣味?」

「誘拐して、遊んだあと解体するのが、趣味。仕事と違って自由にできる。」

「……仕事?」

「殺し屋。」

「殺し……。」

私のことも同じように殺す気だったんだろうか?

「私のことは殺さなくていいの?依頼した人がいるんじゃないの?」

「シュノはオミトの趣味。仕事以外で、たまに遊び相手を探すことがある。」

私、趣味で殺されそうになってたのか。

ゾッとした、ひさびさの感覚だ。

だって、さっきまで人間扱いされていたから。

彼らの本当の目的を知った。


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