山の楽しみ
一人で森の中を歩いていた。坂道を登って登って、歩き続けてようやく見晴らしの悪くない大地が見えた。
「よし!ここにしよ。」
持っているカゴバックからレジャーシートを出してその上に座った。
作っていたサンドイッチとお茶も出す。
天気が良く、気候も過ごしやすいいい季節ーー1人ピクニックには最適だった。
ガサガサ
横の木が不自然に揺れた。
上を見上げると、木の上に登って枝の上に立っている女性がいた。
「リッコさん?」
「シュノ?!」
私に驚いたのか一瞬バランスを崩しかけた。
スナイパーライフルというのだろうか、大きなライフルを背中に抱えて双眼鏡のようなものを首にしていた。
「こんなところで何してるの?」
「それはこっちのセリフよ。ここまで自宅から1時間半はかかるでしょ……?」
「でもムカゴとか、グミとか食べ放題よ?」
「そうじゃなくてね……。」
うーん、と頭を抱えるリッコ。
私に会ったのが、とても嫌だったみたいだ。
「飲み物はドクダミ茶も作れるから。アルコールにつけてたらお酒にもなるし。」
「つまり、ただ単に山の無料バイキングでもしに来たの?」
こちらの目的を詮索するような瞳をしている。
大した考えもないんだけど、なぜか痛くない腹を探られている。
私は不思議でたまらなかったが、隠すこともないので正直に話す。
「ううん、メインはこれ。」
私は、かごの上にある布をとって中身を見せた。
「植物の根っこ?薬でも作るの?」
「たんぽぽの根っこだよ。たんぽぽコーヒー作ろうかと思って。」
「アンタ、結構アクティブね……。」
リッコは木から飛び降りる。
砂が少しだけ舞い上がった。
「わ!」
見事に着地して、何事もなかったかのように立ち上がった。
「帰るわ。」
「用事があっていたんじゃないの?」
「ううん、今その必要なくなったから。オミトたちによろしく言っておいて。」
「わ、わかった。」
リッコは、走ってそのままどこかに行ってしまった。
私が首を傾げながら近くの川から、水を汲んで桶に貯めた。
たんぽぽの根っこすべて水につけて、よく洗う。
1本1本丁寧に、綿の布に包んだ。
「シュノー!」
遠くから私を呼ぶ声がしたので、振り向くと
「ん?久遠さん、どしたの?」
走ってきたのか、膝に手をついて呼吸している。
「ケガ、ない?」
「ケガって、いつも通り外出てただけよ?」
「そう、よかった。帰ろ?」
「まだ、来たばっかりなんだけど?」
こんなに焦った久遠も珍しい。
「何してる、ここで?」
「ピクニックとたんぽぽ収穫してたの。コーヒー作ろうと思って。」
「コーヒーくらい、買えば、いい。」
『何を言っているんだお前は』という気持ちが顔に出ている。
「この辺の小売店はたんぽぽコーヒーは売ってないのよ。」
「味、違う?」
「コーヒーよりも薄いかな、飲みやすいし。」
「そう。」
興味が出てきたのか、ちょっとだけ目を輝かせた。
「久遠さんは?」
「うちの家、誰か、監視してた、気がして、確かめ、来た。」
「さっきリッコにしか会ってないわ。でも、さっさと帰っちゃたんだよね……。」
「監視してたの、リッコ、だったかも。監視する人間、自分の居場所、知られるの、嫌う。」
「ええと、リッコが監視していたのを偶然私が発見してしまったの?」
「そういう、こと。」
もしかしなくてもリッコには悪いことをしたらしい。
「オミト、監視されるようなことでもしたの?」
「してないーーと、思う。いつもの、問題行動は多々らやってるけど。」
拷問とか強姦のことだ、多分。
「リッコの、飼い主ーー会社の、命令かも。」
「現場に泥棒が入った話に関係してる?」
「多分。だから、雇った、殺し屋たちに、監視、つけてる。」
会社がどんなものか知らないが徹底しているのは確かだった。
「分担して、監視。リッコの担当が、俺ら。」
「リッコどうするのかな。」
「監視、バレた人間、しばらく近づかない。」
私のせいでリッコが会社で干されたらどうしよう。
不安な顔をしていたのが伝わったのか、
「大丈夫。リッコは、スナイパー、仕事、ある。」
「うん……。きっと、そうだよね。」
「ところで、シュノ、いつまで、座ってる?」
「ピクニック中なんだけど?」
「じゃ、付き合う。」
レジャーシートの端に久遠も座った。
「サンドイッチ作ったから一緒に食べる?」
「もらう。」
久遠は一口食べて首を傾げた。でも、気に入ったのかそのまま食べきった。
「これ、豆腐?」
「そうよ。」
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