16、平山剛の素顔に対する客観的な意見
「結構面影あるよなぁ……。やっぱり澪の反応が正しいって!」
自宅の洗面台にある鏡の前で変装している自分の顔とにらめっこしていた。
確かに清潔感は段違いだが、それ以外は平山剛と平野コウが同一人物なのは一目瞭然である。
前髪を上げたり、下げたりしながら遊んでいた。
「でもこうすると陰キャ感は強いよなぁ……」
前髪まみれの自分の姿は確かに醜い。
単純に怖い。
それもチンピラとか不良とかヤクザとかの怖さではなく、不審者とか不審者とか不審者の怖さである。
多分、このまま大人になったら職務質問常連になりそうな気がする。
そんな自虐は置いておき、とにかく客観的な意見を聞きたいところだ。
親友君の意見は7割ほど悪ふざけがあるから除外。
あ。
客観的な意見が欲しいのならば、すぐ近くにその相手がすでにいるのを思い出した。
「よし!このまま母さんに凸ってみるか」
これで母さんが気付けばバレバレ。
母さんが気付かなかったら別人と思われても仕方ないということにしてみよう。
久し振りに素顔を曝した俺が家族の母親の元へと歩いて行った。
「へいへいへーい、母さん!」
「あら、剛ね。お買い物してくれてありがとう!母さん、本当に助かったわー」
「うん。全然良いよ。お役に立てたならこっちも嬉しいから」
「立派な息子ねー!」
台所で夕飯の支度をしている母さんに、出入口の影で隠れながら受け答えをしていた。
「ちょっと見て欲しいものあるんだけど」
「あ!もしかして結婚記念日の祝いの品かしら?」
「違うけど……。しかも結婚記念日は先月したし……」
一応、嫌々ながら妹と準備はしていたのだ。
親を喜ばせたい気持ちの時だけは停戦協約が結ばれるのである。
「あらあら。いつでも結婚記念日を祝ってくれて良いのよ。毎日結婚記念日を祝ってくれると母さん嬉しいなぁー。ケーキとか焼き肉とかフライドチキンとかマグロのお刺身とかビールとか最高ね!」
「年1でしか祝わないよ。毎日祝ってたらおめでた感0のただの日常だよ」
どこか感性と価値観がおかしい母さんである。
誕生日じゃない日に誕生日を祝って欲しい系母親な面もあったりする。
「ところで、剛が見て欲しいものってなに?彼女の写メ?」
「いや、彼女なんかいないから」
「澪ちゃんとか彼女として紹介しても良いのに……」
「ないない。ちょっと今から台所行くね」
こうして何年かぶりに素顔を曝しながら母さんの前に姿を現す。
前髪を伸ばす前というと、父さんと母さんが再婚するよりも時系列が前というほどになるのだ。
その間はずっと前髪は友達なのだ。
「これ、どうかな……?」
「こ、これっていったい…………ってあんたは剛!?剛だよねっ!?さっきと姿が変わってる!」
「ははははは……。前髪をおもいっきり上げてみました。おでこ出しスタイルだ」
「あらあら。本当の本当に生剛じゃないの!面影あるわねぇー」
「面影ある?」
「子供の時と顔変わらないわねぇ……」
そりゃあ、整形などしていないのだから顔が替わらないのは当然である。
「懐かしいわねー。ウチの息子にも目があったんだー」
「どういう感想!?」
家族の俺ってのっぺらぼうみたいな扱いをされていたのだろうか……。
「でもよく見ると普通に剛ね……。感動した気にはなったけど、見慣れた息子ね……」
「見慣れた息子か……。顔見せると別人に見えない?」
「見えない」
「あ、そうですか……」
「別人に見せたいなら顔にタトゥーを入れて、髪型はモヒカンにして、制服は長ランなんかにすればあっという間よ!」
「そういう変化は求めてないのよ!ナチュラルな変化をした別人に見られたい」
「今のままじゃあただの剛よ」
母さんの断言にがっかりしてテンションがものすごく下がる。
そのままヘアゴムを外し、前髪を下ろす。
「ビフォーアフターが酷いわね……」
「そういうこと言わないでくれない!?」
「ずっと前髪上げるとか、短く切ったりしないの?それだけで雰囲気とか、第一印象とかかなり変わりそうじゃないかしら?」
「そ、そう?」
「あ、褒めすぎた」
「褒めすぎて悪いのかよ!」
いつものこととはいえ、実の息子への扱いがわりと酷い。
もうちょっとこう……飴と鞭みたいな優しさがないのかな……?
「とはいえ、四六時中この姿はちょっとまだね……。自分の顔面に自信がない……」
「トラウマを引きずるわねー……」
「学校でいきなり前髪切って通学したら失恋したなんて噂が立っちゃう」
「普段、学校でどんな扱いされてるの?イジメられてない?大丈夫?」
困窮していた母親であるが、納得はしてくれたようだ。
イジメられてはいないけど、毎日舌打ちの連打はされている。
「ま、髪型くらい自由にしなさい!」と強く肩を叩かれた。
それと同時くらいに「ただいまぁー」という妹の声がして、居間経由で台所の方向にやってきた。
「あー、喉乾いちゃった」
「ウーロン茶あるわよ」
「ありがとうございますお母さん」
2リットルペットボトルからコップへとウーロン茶を注いでいると、俺の姿に気付いた妹がチラッとこちらを見た。
「なんでおにいを見ると悲しくなるんだろう……」
「普通に酷くない!?」
いつもの皮肉合戦が始まるのであった。
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