23、平山奏のトリビア

ボランティアで疲れた身体に鞭を打ちながら帰り道を歩いて、ようやく自宅にたどり着いた。

水瀬さんと澪の接点が出来てしまったが、それ以上に水瀬さんとの仲が深まったことでプラマイゼロという認識になっていた。

というよりかは、無理矢理納得させていた。

そんなそこそこ有意義だった気もするボランティアは滞りなく終了したのである。


「ただいまー……」


腕をぐるぐるまわしながら肩をほぐす。

メガネをかけるほどに目が悪い俺は、肩こりに悩まされている。

肩こりと縁がない人生を送りたかったと嘆きながら、セルフ肩揉みをしながら玄関から奥へと歩いていく。


「おにい。なんか老けてるわねあんた」

「余計なお世話だよ」

「肩こりに悩んでいるなんて情けないわねー。私が1つトリビアを披露してあげるわ!」


居間にいた妹が俺の様子から察したのか、肩こりに対するディスる行為がはじまった。

すぐにはじまる妹のマウント取りである。

ぶれない妹の軽口に、今日もムッとしながら対応する。


「はぁ?トリビアだぁ?バカかよ、妹よ。俺はお前より長く生きているんだよ。妹が知っている知識なんか、大体俺は知っているんだよ。まぁ、一応聞いてやるよ」

「ずいぶん上からだねおにいごときがっ!!それなら、こんなトリビアはいかが?」

「トリビアだぁ?トリビアってのは知識がないと説明するの無理だぞ」

「わかってるわよ。ズバリ、肩こりには揉むよりもストレッチが良いのよ!」

「え!?揉むよりストレッチ!?そんなバカな!?肩こりは揉んで直すもんだろ!?」


「チッ、チッ、チッ、チッ」と、掲げた右手の人差し指を振りながらそんな仕草を見せる妹。

ムカつくが、衝撃の言葉であり、正座して肩こりトリビアに聞き入っていた。


「肩こりは姿勢が悪いことにより起こるのよ。おにいの猫背なんてまさに肩こりの原因でしょ」

「う……。猫背を指摘されるとは……」

「肩こりなんて筋肉が固まっているんだから定期的に伸ばすストレッチが大事なんだよ。あ、おにいがストレッチなんて単語知らないかごめんね……」

「バカにしすぎやろ」


なんてなめ腐った妹だと憤慨しそうになる。

しかし、妹はなに食わぬ顔でケラケラケラケラと笑っているのである。


「そっか。揉み揉みされるの大好きですなんだけど、ストレッチが良いなんて……。揉み揉み大好きなのに」

「揉み揉み揉み揉み揉み揉みとうるさいよ」


『揉み』とか『揉む』と言わせたいだけの気持ちも、70パーセントしかないのでセーブだろうか。


「奏トリビアはおしまい。気になったら自分で調べてねおにい」

「あぁ。自分で調べてみるよ」

「おにいは単純に単純な奴だね」

「単純に単純って何!?重複してるけど!?」

「でも、おにいにピッタリな言い回しなのよね」

「2つもワードを使っておきながら『単純』しか伝わんねーよ」


なんて贅沢な言い回しなのだろう。

『単純に単純』。

いつか使ってみたい単語である。


「前置きはさておき」

「は?前置き?」

「うん。実はミオねえから連絡もらったんだけど……。おにいのティッシュ配りが大不評だったらしいね」

「もうほっといてくれよ……。そんなに弄るところじゃないっての……」


帰ってからも妹にからかられる始末。

くぅー、疲れました……。

来年のボランティアはもっとポケットティッシュを受け取ってもらえるように決意をしたのであった。

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