24、水瀬愛のギャル友達

「今日も学校あんのかよー……」とぼやきながら、通学する。

ボランティアの次の日を土日にあてがう程度の柔軟さを学校に求めつつ、訴えてもどうにもならんという結論に落ち着く。

色々あったボランティア活動を回想しつつ、今日は大人しく地味な学生になりきろうと気合いを入れて教室に向かう。

誰にも声をかけられることもないまま、クラスの教室までやってきて、自分の席に着席する。

相変わらず俺以外は騒がしいクラスだ。

親友君は、ヤンキー友達数名と盛り上がっているが、あの中の輪に入りたいと思ったことはない。

彼らは『女のナンパの仕方』とか、『どっかの店員さんがかわいい』とか女の情報をシェアばっかりしていて、近寄りがたい集団である。

親友君コミュニティに入ったところで、ヤンキー友達を追放して親友君と2人っきりになる未来しか想像付かないし……。


親友君が大好き過ぎて、排除してしまう気しかしない。

だから、幼馴染であっても常に一緒にいるわけではないのだ。

そのぶん、プライベートでファミレスや家で彼と遊ぶのである。


「…………っと」


自分の席へ目線を送る。

その時に、隣の席の異変に気付いた。

水瀬さんではなく、彼女のギャル友が座っていた。

スマホを弄りながら、まだ教室にいない水瀬さんの席を独占している。


「おい。愛の金魚のフン。ちょっと面貸せやコラ」


さてさて、今日の1時間目は英語である。

しかも、小テストをするという最悪な日程である。

英語をなんか丸暗記しようという付け焼き刃で凌ごうと、教科書とノートを机に広げる。

時間があんまりないし、特急でテスト範囲を頭に叩き込む必要があるようだ。


「おい、お前だよお前。無視すんなー、おいっ!」


英語のノートを見る度に、何を覚えなくてはいけないのか全然理解できない。

かなり苦手な教科だ。


「呼んでんだろうが、愛の奴隷男!」

「うわっ!?え、なに……?こわっ……!?」


水瀬さんの席を占領していたギャル友が、俺の机から『ガンッ!』という鈍い音を立てた蹴りで机がぐらっと揺れる。

英語のノートが床に落ちそうになり、必死に手を伸ばして落下を防ぐ。


「さっきからずっと呼んでるのに、聞き流してるお前が1番怖いよ!ただでさえ存在感ないんだから反応しねぇとゴーストだぞお前!?ゴーストと毒の複合タイプだろ」

「そんな……。ポ●モンみたいなこと言わないで……」


典型的なゴーストじゃん……。


「そんくらいお前の存在が暗いんだよ。…………なんだよ、その面倒そうな目?あたしに攻撃しようってか?」

「舌で舐める攻撃ならするよ」

「きっしょ、きっしょ、きっしょ。スリーきっしょの称号をあげる」

「なんでいきなりボロクソなの……?」


ゴーストと毒の複合タイプだの、初対面な俺に酷い言い草なギャル友である。

銀髪に、少し日焼けしたような肌、白く塗られた爪、人を舐め腐ったような生意気な目。

類は友を呼ぶとはまさにこのことだと、水瀬さんの友達付き合いには参るね。


「なんか平山、お前最近調子乗ってるじゃん」

「は?」

「愛に馴れ馴れしく話しかけてよ。邪魔オブ邪魔って感じ」

「邪魔オブ邪魔……」


昨日、妹と会話した『単純に単純』みたいな重複である。

そういう言い回しって女子の間で流行っているのかな?


「なんだよ?その含みのある言い方は?」

「いや、英語の勉強してきて偉いなって……」

「してねーよ!むしろ、英語が1番嫌いだよ!授業中、滅びろって儀式してぇくらいだよ!」

「あ、俺と仲間じゃん。俺も英語が1番嫌い。滅びろって踊りながら儀式したくなるよね。頭に火の付いたろうそくとか付けちゃったりしてね!」


1度、英語嫌いのオフ会とか開いて『英語の授業滅びろ儀式』とかを開催してみたかったのだ。

まさかこんなところに儀式の同士がいたとは感激・感無量である。


「あ、わりぃ。数学が1番嫌いだわ。だからお前の仲間じゃねぇよ」

「あ、俺と仲間じゃん。数学も英語と同率1位で嫌いだから」

「だからゴースト・毒タイプのお前の仲間じゃねぇんだわ!」

「ははははははは。草」

「草タイプでもねーんだよ」


普段の教室では水瀬さんと親友君しか絡めるクラスメートがいないので、たまにこういう知らない人と会話があるだけで嬉しかったりする。

水瀬さんともまた違う会話の広がり方をするのは楽しいものだ。

俺はボッチはボッチなのだけれど、しゃべるのも大好きファッションボッチな俺である。

決してコミュニティ障害ボッチではないのだ。


「おい、平山。あんた、あたしのこと舐めてんだろ?なぁ?」

「…………舌で舐める?」

「わかったから離れろっての!あー、ムカつく!前髪ゴーストポイズン野郎!」

「メガネが消えてる!メガネが消えてる!」

「なんでメガネも催促してんだよ、ムカつくなこいつ。そうやって愛をイライラさせているんだろ?」

「いや、別に……」


むしろ水瀬さんが俺をイライラさせることに力を入れている気が……。

朝のホームルーム前、俺は水瀬さんの友達に絡まれていたのであった……。

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