25、平山剛は前髪を見られている
「しっかし、近くで見ると前髪やっばい量だなお前……。ボリューム満点ってやつだよ。ハンバーグなら嬉しいが、前髪ならきっしょいよ」
「ハンバーグ好きなんだ。可愛いね。あ、俺もハンバーグ好きなんだー。ナカーマ!」
「そういうところがムカつくんだよ!ハンバーグの話なんかしてなかったじゃねぇか!」
「……………………え?」
あれ?
水瀬さんのギャル友がハンバーグって単語を出したんじゃなかったかな?
記憶を3回蘇らせるも、やはり俺からハンバーグなんて単語を出した記憶は一切ない。
「授業受けるために愛の隣にいるのが、もう不審者だわ」
「もう不審者ってなに!?せめて中学生じゃない!?」
「ただの芸人よ、その人……」
水瀬愛さんのギャル友は俺に説教するように話しかけてくる。
前髪だのゴーストだの毒だの不審者だのと酷いアダナのオンパレードである。
「だいたい、なんでお前みたいな陰キャが愛の隣の席なんだよ。ありえねー、かわいそー!愛、かわいそっ!」
「ただのくじ引きだよ。理由があるとしたら運だよ」
「一生ぶんの運、使っちまったな……」
「な、なんでいきなり優しい態度になるのさ!?もうちょっとくらい運あっても良いじゃん!」
ただでさえ不幸体質なんだから!
…………とは言わないが、運が残っていないのは色々と怖いものである。
ブレザーの襟を整えるようにしながら、言葉を飲み込んだ。
「まぁ、お前はただでさえ不幸体質・弄られ体質・被害者体質あるんだから運がないと困るか」
「なんでわかるんだよ!何者だよお前!?」
「あたし、顔見れば体質わかる体質なんだよ」
「俺の顔見せてなくない?お前が見ていたのは顔じゃなくて前髪だよ!」
「推理ものでありそうな展開に笑っちゃいそうになるけど、その前髪のせいで頭に入ってこないわ。わりぃな」
「……………………」
一切悪いと思っていない謝罪である。
親友君みたいに普通の女子の友達が欲しいのに、毎回毎回弄ってくるような性格の人しか来ないのか。
親友君はギャルゲーの主人公なのかとも疑いそうになる。
「とにかく、昨日は愛とボランティアだったんだろ?デパートで」
「そ、そうだね……。そんなこともあったよ水瀬さんの働きぶりは凄かったね。出来る女性オーラが滲み出てたね」
「さすが!出来ない男性オーラが滲み出ているゴーストポイズンの発言に説得力あるな……。そりゃあ仕事量も人気も圧倒的大差あったろ?」
「出来ない男性オーラが滲み出てるって言った?あ、あ、あ、圧倒的大差なんかねーし!」
「言ったし、圧倒的大差あったのバレバレだからね。というか、お前怖くないから文句言い放題だね」
「文句言い放題とか、もう俺に金払えよ」
どんな文句も聞いてやるから2000円くらい俺に支払って欲しい。
「威厳がないから怖くもない。あんたが金払って文句言われまくったらぁ?」
「クッ……。前髪があと10センチ伸びていれば威厳が生まれていたのに……。不覚っ!」
「それは別の意味でこえーよ。鼻も口も前髪で消えてるよ。お前の前髪原始人かよ」
それはそれで顔を隠せるならアリかもしれない。
ただ、食事の時に不便そうだ。
それくらいになる前には前髪を鼻より高い位置にはキープをしておくべきである。
「とにかく、愛はお前みたいな変人と話が合うような奴じゃねぇんだよ」
「そうかなー……?」
異世界転生のマンガとかラノベを読み漁る時点でかなり話は合う人だとは思う。
そんな態度をこちらに晒さないだけで、陰キャ寄りな性格があるよ水瀬さんは。
ただ、ギャル友が知らない情報をこちらから晒す必要もなく、ただ黙って彼女の説教に耳を傾けていた。
そんな時だった。
俺が、ギャル友の後ろから人の気配を感じたのは。
「はぁ……。ったりー。あ、おはよー雅。わたしの席占領すんなや」
昨日のボランティアの疲れが取れていないのか、少しだけ元気が無さそうな水瀬愛さんがようやく登校してきていた。
「おはよぉー愛。イス借りてたよ、わりぃわりぃ」
「悪いと思うなら悪びれろっての」
「あははははー」
ギャル友がわざとらしく笑って誤魔化しながら席を立ち上がる。
なんというか、俺にだけ悪いと思っていないのではなく、素でこんな人なのかと察してしまっていたのであった。
「ちっ…………。てかメガネじゃん。雅となに話してたん?雅とメガネってどんな組み合わせ……」
「ポ●モンの話題ってやつよ。なぁ、ゴーストポイズンワーム?」
「虫増えてない!?ゴーストポイズンだから!」
「え?ゴーストポイズン気に入ったのか?いくらでも呼んでやるぞゴーストポイズン野郎」
「待って!全然話が見えん。てか、とりあえず準備させて」
水瀬さんが呑気に授業の準備に取りかかる中、
てかさ……。
雅って名前なのに、見た目は日焼けしたギャルって名前詐欺じゃねーの!?
ブラックタイガーとかいう名前のエビを見た以上の衝撃である。
それくらい見た目と名前が一致しない水瀬さんのギャル友達の雅さんである。
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