32、ウインドウショッピング
「とりあえず何をするか決まっていないなら、ブラブラっとしよっか」
「うん。リードしてくれてありがとうコウ君」
「う、うん……」
2人で並びながら駅前から歩いて行く。
電車でどこか行こうか?と水瀬さんの意見も聞いてみたが、「遠出は次回にしよう!」と言われた。
…………次回、また水瀬さんとプライベートで会う日があるのかは知らない。
お世辞の可能性も高いと思うが……。
「なんか1人で歩くのと景色違うなー」
「確かに……」
水瀬さんが長い金髪を揺らしつつ身体を伸ばしながら、噛み締めるように発言する。
胸の大きいラインがくっきり見えてしまい、目元に右手を伸ばすが、メガネをかけていないことに気付き指が空を切っただけになった。
普段メガネをしていて、困った時に角度を調節する癖はコンタクトレンズにしていても出てしまう。
なんか恥ずかしく、役目を失った右腕を元の位置に戻す。
「ん?コウ君って普段はメガネかけてる人ー?」
「そ、そうだね。俺、今コンタクトレンズ入れてるから……」
「へぇ……。コウ君のメガネとか見たいかも」
「えぇ!?」
「わ、わたしさ……。メガネ男子好きなんだよねー……」
「ははは……。そうなんだね。い、いつか水……愛さんにもメガネをかけている姿見せられるかもね……」
い、いつもメガネをかけた姿を水瀬さんに目撃されているのでちょっときょどってしまう。
コンタクトレンズじゃなくて、メガネならそれはもうただの平山剛そのものである。
「今すぐ見たい……」
「なにが?」
「今すぐコウ君がメガネかけている姿見たい!」
「で、でもメガネ持ってきてないし……」
弱ったなぁ……。
いつも愛用しているメガネは、自宅にあるメガネケースに入れてお休み中なのである。
残念ながらメガネ平野コウの披露は難しいだろう。
「んー。じゃあ、ウインドウショッピングしよっ!」
「え?」
「目的地決まったから!こっち行こうコウ君!」
「あっ、愛さん!?腕!腕!」
「んん?」
どこだかわからないが目的地は決まったという水瀬さんは俺をぐいぐいと引っ張るのだ。
それは良いのだが……、何故かナチュラルに腕を組まれていた。
小心者なので、俺が誰かとくっついているだけで申し訳ない。
「あー!腕を組んでること?気にしないで良いじゃん!ね?」
「そ、そう?」
「今時男女で腕を組むとか普通だよ普通」
「へぇ」
確かに言われてみれば親友君も『男女でキスとか当たり前だよ。当たり前、当たり前』とよく俺に持論を語っていた。
男女のキスが当たり前なら、男女で腕を組むなんか普通なのは納得である。
リア充ギャルな水瀬さんもこう言ってるし、間違いはない。
「……………………」
「?」
でも、普通と言うわりにはかなり水瀬さんの顔が赤い。
照れているのか、余裕が無さそうだ。
普通だからといって、照れないわけではないようだ。
「…………っ!」
俺も恥ずかしいことには変わりないのだが……。
特に会話という会話もなく、水瀬さんに引っ張られていくと見覚えのあるデパートに連れて行かれた。
というかここ……、澪が乱入した記憶が蘇ってくる。
「ここ!ここでウインドウショッピングしよっ!」
「う、うん」
「エヘヘ。コウ君は知らないだろうけど、こないだわたしこのデパートでボランティアとしてティッシュ配りしたんだー」
「す、凄いね!そういう活動してるんだね」
苦笑いをしながら水瀬さんのデパートのボランティア活動の報告を聞いていて、小さくなっていた……。
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