33、平野コウの憧れ

こないだここでティッシュ配りしたなぁという思い出が蘇ってくる。

あの時は楽しかったなー。


みるみる減っていく水瀬さんのポケットティッシュに比べ、全然減らない俺のポケットティッシュ。

カルガモ親子と化した6人の中坊軍団。

チュッパチャピスのコーラ味を舐めながらボランティア活動を邪魔しに来た桃田澪。

澪が妹に俺がやっているボランティア活動の見学に誘ったら『きしょいんでパス((((;゜Д゜)))。ミオねえ1人で行ってきたら?』と返信されたライン。

俺を汚物を見る目でバカにしてきた別学校のJKコンビ。


……あれ?

ロクな思い出がないぞ?

過ぎ去った思い出というだけで美化されていたが、実はそんなこともなかったというガッカリ感を思いだしてしまったのである。


「……………………」


黒歴史決定。

記憶を扉の向こうに封印したのであった。


「ここでさ、ティッシュ配りしたんだよ!『よろしければどうぞー。見てくださいねー』なんて言いながらね」

「ははっ!面白いね!」


記憶を消去させたので、今はじめてそれ聞いた風のリアクションをする。


「楽しかったなー。同じクラスの奴とポケットティッシュ配ってさ」

「そ、そ、そ、そうなんだー。へー。お、女の子と一緒に配ったのかなー……なんて」


白々しく、知らないですよアピールをして水瀬さんに返事をする。

すると「ううん、違うよ」と、寂しそうな目で首を振った。


「隣の席に座ってる男子だよ。本当はもっと仲良くしたいんだけどねー……。なんか、変な意地張っちゃうんだよ」

「…………」


水瀬さんが俺と仲良くしたい?

変な意地を張る?

あの舌打ちクイーンが?

『え?え?』と混乱しながら、目がまわりそうになっていた。


「わたし、全員の前でコウ君の前みたいに素直になれるような人じゃないんだよ。クラスではさ、必死にリア充ギャル気取ってるけど無理してんだよねー……」


おでこを露出させている金髪の耳辺りを照れくさそうに弄りだす。

なんか、そんな弱々しい姿が水瀬さんにもあるんだなって面をくらう。

俺の知っている水瀬さんは確かに舌打ちするし、冷たい人だ。

でも、気高くて強い人というイメージがあった。

ただ、そんな吐露を聞くと、胸がモヤモヤっとした気持ちになる。

なんだろう、この気持ち……?

同情……、してるのかな……。


「コウ君は、クラスのわたしを知らない人だから話しやすくてさ、なんか変な面ばっかり見せちゃうね……」

「ううん。愛さんのことが知れて……、俺も親近感沸くよ」

「そ、そうかな……?」

「無理することすら、俺には出来ないからさ。だから、その愛さんの強さに憧れるよ」

「こ、コウ君……」


俺は無理して現実を見たくなかったから、前髪をどんどん伸ばしていって、顔を晒せなくなっていった……。

弱すぎて女々しい自分が嫌になるほど、水瀬さんが輝いている。


「あ、憧れるなんて……。そんな……、わたしなんて……」


うわっ、凄いデレデレしてる……。

普段とのギャップと違い過ぎて、見ているこっちも恥ずかしくなる。


「い、行こっ!コウ君!こっちに行きたいのっ!」

「う、うん。ど、どこだろう……?」


水瀬さんがまた腕を組み、ぐいぐいと俺を引っ張っていく。

ボランティアをした出入口からドンドン離されていき、デパートの店内を歩かされることになる。


「エヘヘへへ。すぐにわかるよ。内緒、ナイショー」

「ははは……。お手柔らかに頼むよ」


水瀬さんに腕を組まれ、引っ張られて……。

これで異性を意識するなって無理だよ……。

水瀬さんの頭から香るシャンプーの匂いが鼻をくすぐることもあり、彼女も女なんだなーっていう当たり前の再認識をさせられていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る