34、平野コウのメガネ趣味
デパート内をぐいぐいと腕を引っ張られていくと、連れられたのはメガネ売り場であった。
なんかすぐに意図を察したかもしれないと水瀬さんを向くと、「色々メガネあるよー」と嬉しそうに微笑んだ。
「こ、これは……?愛さんもメガネにするとか……?」
「違う違う。コウ君のメガネ姿が見たいの!度なんか入ってないし、コンタクトレンズしていても関係なし!」
「コンタクトレンズを装着して、伊達メガネを付けるってかなり周りくどいね……」
かなり本末転倒じゃん……。
並べられた伊達メガネを眺めながら、水瀬さんにメガネ姿を見せるのかと思い、極力普段のメガネに似た系統は避けようと決めた。
「メガネってたくさんあるよねー。みんなどうやってデザイン決めてるんだろう?コウ君はどんなメガネしてる?」
「俺はシンプルなメガネが欲しいんだけど、中々見付けられないんだよね……。まぁ、無難に黒っぽい系統のフレームのやつを身に付けるかな」
一応、学校用とプライベート用、予備用で3つのメガネを使いまわしているが、水瀬さんの前では学校用の藍色のメガネを付けている。
だから黒っぽい系統と言っておけば俺と平山剛を結び付けないだろう。
中々ボロが出ない平野コウの演技も難しく、頭を使うことが多すぎる。
「メガネ屋あるある。本当は10分くらいでフレームを決めるつもりで入店しても、店内で1時間以上悩んでいることばっかりなんだよ」
「えー!?何それー?本当に?予定より6倍も時間かかるのー?」
「ホント、ホント。何百種類から1つに絞るってかなり難しいんだから。むしろ1時間でフレーム見付けるのでも早い方だから」
「メガネ選びって、わたしの服選びより時間かかるんだねー」
おそらく裸眼生活しか送ってないだろう水瀬さんは、メガネトークにやたら食いついてきた。
ガチのメガネ選びをする際は、1人の時に、時間がある休日がベストだということも水瀬さんに解説しておいた。
「コウ君の話は面白いなー。友達多いでしょ?」
「そんなことはないけど……。普通だよ普通」
数人しか浮かばなかった。
ミヤミヤのようなギャル友達や、親友君のようなウェーイ系男子に囲まれている水瀬さんと比べると圧倒的に友達の多さは負けてしまっている。
「そうなんだー。あっ!?これ掛けてこれ掛けて!」
「このメガネ?」
「そうそう。インテリっぽく見えそう」
藍色のフレームメガネを渡されて一瞬だけ『うっ……』と詰まりそうになるが、無表情を装いつつそのメガネをかけてみた。
鏡を覗き込むと、やっぱりこれ学校用のメガネと似てるじゃねーかと突っ込みたくなる。
意外と水瀬さんって俺のことを実はあんまり嫌ってないのかな?とか勘繰りを入れたくなる。
今、この瞬間に前髪を下ろしたらいつもの俺に戻るなと瞬時に察した。
「ど、ど、どうかな?」
「似合う!似合う!勉強とか得意そうなイケイケ男って見た目してるっ!」
「褒めてるのそれ……?」
「めちゃ褒め、めちゃ褒め」
水瀬さんの男のタイプってイケイケ男なのかな……?
俺とはまったくの真逆なので、脈なしとバッサリ切られた気分である。
「これも良くない?ピンクフレーム?」
「え?ピンク!?」
「ピンクというより紫寄り?こういうのもコウ君、似合うって!」
「そ、そう?結構冒険じゃない?」
「コウ君、顔のパーツ整ってるからなんでも似合うって!なんでも似合う人は羨ましいなー」
「愛さんもなんでも似合うと思うよ」
「わたしは絶望的に可愛い服とか似合わないんだよねー……。ちょっと残念」
確かにカッコ良い服は似合う水瀬さんだが、可愛いワンピースなどは似合わない気がすると変に納得してしまう。
それからは水瀬さんチョイスのメガネを10種類くらい付けさせられたが、彼女はとても楽しそうだったので有意義な時間にはなったと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます