35、水瀬愛は言いかける

「コウ君メガネ、堪能させていただきました!」

「楽しめたなら良かったよ」


約30分の平野コウのメガネショーは終わりを告げて、水瀬さんは満足げであった。

彼女がメガネ男子萌えだったのをはじめて知った。

2年間クラスメートで、お隣さんといっても水瀬さんのことはまだまだ知らないことばかりである。

異世界転生作品を愛読書にしていたりと、意外と親しみやすい人だったんだと意外性が高い。


「これからはどうするの?」

「ブラブラっとデパートまわろうか!ウインドウショッピングを楽しもう!」

「う、うん!」


ウインドウショッピングとは、お金を使わずに店を見てまわったりすること。

ウインドウショッピングなんて横文字が並びカッコいいイカス響きだが、悪く言えば冷やかしである。

メガネを買わずに、メガネを付けてまわるだけということをすでにやっていたのであった。

長時間居座ったこともあり、申し訳なくなり300円くらいのスプレー状のメガネクリーナーを1本だけ購入したのであった。

普段はメガネ拭きを乾拭きしているだけなので、どのくらいメガネがキレイになるのか帰宅後の楽しみだ。


「女性ものの服でも見よっか」

「わたしはそれでも良いけど、コウ君は退屈しない?」

「俺は平気だよ。そういうのは苦じゃないよ」


よく澪の付き添いや、親友君の付き添いで服屋に同行することに慣れてしまっているから。

俺はあまり服には興味ないけど、他人がどういう服に興味を持つかに興味があるという変な趣味持ちだったりする。

「でも、わたしも友達付き合いで服は見るけど、あんまり服には惹かれないんだよねー」と服売り場に向かいながら、水瀬さんの暴露に驚いていた。


「そ、そうなの?愛さんの服のコーディネート好きだけどなぁ」

「ふふっ。ありがとうコウ君」


むしろギャル=服大大大大好きはぴはぴグループなイメージがあるので、水瀬さんのカミングアウトはかなりの衝撃である。

色々なところでギャルのイメージが崩れていくのが水瀬愛という女性なのだ。

平野コウでいると、良い意味で水瀬愛像が綻んでいく。


「わたしは基本的に友達に選ばれるのを着ているなんてのが多いかなー。だからファッションセンスが友達に寄っちゃうの」

「わかるわかる。俺も友達と服買うこと多いから、かなり友達寄りになる」

「そうなんだー。わたしもコウ君の服装センス良いと思う」

「俺は親友君の影響」

「あー!そういえばコウ君、親友の友達なんだっけ!」


むしろ、水瀬さんに平野コウを紹介する出来事が親友君の気まぐれから始まっていたりする。

思い出したように「親友の服チョイスなら間違いないかー!」と納得したようである。


「あいつ、オシャレ系男子だからね」

「親友君、化粧とかも嗜んでいるから凄いよ。俺じゃあ、彼に勝てないね」

「親友のこと、好き過ぎじゃん!」

「あはははははは。幼馴染だからね」


困ったことがあればとりあえず親友君という選択肢が常にあるくらいには信頼している友人なのであった。


「そういや、あいつも親友の友達なんだっけか……」

「ん?どうかした愛さん?」

「あっ!いや、なんでもない。ほらほら、服売り場見えてきたよコウ君!」


女性ものの服に身を包んだマネキンを入口にして、服を見ていく。

水瀬さんの服のチョイスはどんなのだろうと、ハンガーの服を色々見ていこうとしていた時だ。


「ね、ねぇコウ君!」

「ん?」

「コウ君と同じく親友の友達みたいなんだけど……」

「え?親友君?」

「…………、あっ。ごめん。やっぱりこの話はなし!」

「?」


何かを言いかけた水瀬さんだが、恥ずかしくなったのかハンガーの服を2着取り外していた。

俺の個人的な意見ではあるが、クールな水瀬さんにはちょっと可愛すぎる服を取っているなど慌てているように見えた。

まぁ、話したいことがあるなら言うでしょ。

今はただ、水瀬さんとのウインドウショッピングを楽しむことにした。

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