29、平山奏は朝から元気

「じゃあ、また明日ねー!」と、元気に親友君を見送った2日後。

親友君のライン越しに約束した水瀬さんと会うことになった土曜日になった。


「ふぁぁぁぁ……。ねむっ……」


ベッドの毛布から抜け出して、あくびをしながら脱力する。

親友君との約束からあっという間に週末である。

『まだ約束の日じゃないからな……』と、何回か目を反らしていたがどうやら本気で水瀬さんと会う日である。

女の人と待ち合わせをするなんていうリア充感たっぷりなイベントに、胸をドキドキとさせてしまい、朝から落ち着かない朝である。

相変わらず自分が女々しくて恥ずかしい。

目をゴシゴシっと拭って、ベッドから抜け出した。


脳がまだ半分寝ていて、自分の存在感が希薄なまま家族が集まる居間に行く。


「おはよう剛」と母さんから挨拶されて、「おはよー」と我ながら元気のない挨拶を返す。


「相変わらずラジカセの音量が最低みてぇな聞き取れない声してんなーおにい」と妹は朝から兄へのマウント取りでご機嫌になっていた。


「あ、妹もおはよー」

「聞き取れねぇよ。もっとハッキリ挨拶!リピート要求!」

「妹もはよー」

「もう1回!もっと腹から声出して!リピート要求!」

「はよー………………。ねむっ…………」

「なんでドンドン声が小さくなっていくんだよ!羽虫が飛んでる時の羽音の方がまだ聞こえるよ!」


朝から元気100倍アンパンな男くらいに声のボリュームを張る元気妹は、キレッキレであった。

引っ張られる方が楽な俺と、引っ張るのが大好きな仕切りたがりな妹は本来相性は良いのかもしれない。

俺は妹とは仲良くはなれないものだけど……。


「この菓子パン食べて良い?」

「いいわよー」


居間のテーブルに置かれてあった5個入りクリームパンの封を開けて、モキュモキュとパンにかじり付く。

安物なクリームの甘い味が口に広がり、朝から幸せな気分になる。

朝からクリームパンを食べるという背徳感が、妙にチートデイを過ごしている気分になる。

別に筋トレをしていたり、ダイエットをしているわけではないが……。


「ウチにもクリームパン1個ちょーだい」

「はいはい」


妹もクリームパンをモキュモキュとかじりだす。

「美味しい!」と妹も安物クリームパンにご満悦であった。

その頃には俺はクリームパンを1個食べ終えて、2個目に手を伸ばしていた。


「おにいは今日何してるの?」

「…………えっと」


今日の用事を妹聞いてきたのだ。

ここで『用事なんかない』と発言すると『寂しいwww』と笑われるまでセットになる。

今日はそんなことはないのだ。


「親友君から呼ばれて出かけるよ」

「男に呼ばれたのかよ。寂しいwww」


結果は全然変わらなかった……。

水瀬さんの名前を出すべきか悩んだが、妹の前には澪以外の名前は出したくがないが故の親友君の名前チョイスであった。

しかも、親友君のライン越しに誘われたので、俺の言葉には一切間違いがない。


「母さん。おにいってもはや親友さんが彼女だね」

「親友君は良い子だけど、彼女はやっぱり女の子が欲しいな……」

「わかってるよ……」


朝から無駄に賑やかな平山一家であった……。

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