28、平山剛は動揺する

「え?水瀬さんがコウに会いたい?」

「そうなんだよ!だから、俺にラインが来た……」

「え……?」


学校の帰り道。

幼馴染で親友でもある親友君と肩を並べながら歩いている時に、水瀬さんが前髪を上げた俺と会いたいという複雑な話が飛んでくる。

まぁ、確かに俺は水瀬さんとの連絡先を持っていない。

それに、水瀬さんとコウの共通の知人なんて親友君しかいない。

一応はもう1人の幼馴染である桃田澪も共通の知人ではあるが、水瀬さんは澪とコウに繋がりがあるとは知らないのか……。


そんなわけで、親友君へコウに伝えて欲しいというルートが見えてきた。

意外と頭良いな、あのギャル姉ちゃん。

それはそうと…………。


「なんで親友君は水瀬さんのラインアカウント知ってるの……?」


親友君と水瀬さんの会話している姿なんか、あの日のはじめてコウに変身した日以外見たことない。

学校では親友君よりも水瀬さんと会話している自負があるだけにラインの連絡先があるという衝撃がヤバい。


「え?そんなんクラス替えした時、クラスの女子全員に挨拶まわりした時にラインアカウントもらった」

「え?神様かなんか?」

「ただの親友だよ」


しれっとリア充伝説を語る親友君に、開いた口が塞がらない。

特に自慢するようなトーンでもなく、『昨日の夕飯はマーボ豆腐だったんよ』みたいな何気ない日常のように話すのが本当に親友君である。


「ち、因みに連絡先交換できた打率は……?」

「10割」

「……………………」

「ただ、顔が好みじゃない子と、明らかにくれそうにない真面目そうな子には連絡先聞いてないから……。クラスの女子からラインの連絡先をもらったのは12人程度かな。水瀬とか宮崎とかギャルの子はちょっと話せると余裕で連絡先くれるよ」

「へ、へぇ……。水瀬さんとかミヤミヤみたいなギャルはちょっと話せると連絡先くれるんだ……」


目が泳ぎながら親友君の言葉を反復する。

ちょっと話せる仲にはなった気がするんだけど水瀬さんもミヤミヤもラインアカウント交換しようなんて流れがなくて、ソワソワしてくる。


「ミヤミヤって宮崎のこと?」

「そうそう。宮崎雅って名前だったからさ」

「へぇ。アダナなんて仲良しじゃん」

「な、仲良しなのかな……?」

「アダナを許す女子とかデート誘ったら即OKくるっしょ。いやぁ、まさか剛がミヤミヤ狙いとは……」

「狙ってはないよ」


いや、ミヤミヤにデートを誘ったところで『はぁぁぁ!?ゴーストポイズンとデートとか死んだ方がマシ。というか、お前が死んでゴーストになれよ』とイマジナリーミヤミヤの暴言が簡単に予想出来てしまう。

あの子はストレートな悪態をぶつけられる人である。


「あ、そうだ!なら剛に水瀬さんのラインアカウントあげようか!?」

「そんな施しのようなラインID交換嫌だよ」

「普通の男子なら飛び付くんだけどねー。というか、お前早くラインの名前を『コウ』に変えろよ。このままじゃあずっと水瀬に連絡先教えられないだろ!?」

「変え方わかんね」

「もう貸せよ」


ポケットに手を突っ込まれてスマホを取り上げられる。

「ま、待って!?」とそれを静止しながら、親友君が握ったスマホへ右手の人差し指の指紋を認証させてロックを外す。


「ここをこうやって……、地味ネイムである平山剛をコウへと入力すると……更新完了!」

「なんか俺のスマホが知らん男に乗っ取られた気分なんだけど……」

「別に俺と澪と両親の4つしか連絡先ねーじゃん。影響なしってわけ」

「ひでぇ……」


因みに妹すらラインの連絡先を持っていない始末である。

曰く『毎日家で会うのに連絡先いらないっしょwwwおにいに連絡する時なんかねーからwwwというか、キメェから妹口説くなよwww』と、クソガキみたいに笑われたのであった。


「これで水瀬の連絡先を剛のスマホに入れられるな」

「いや、いらない」

「え?なんでだよ?」

「水瀬さんから直接聞かれたい」

「うわっ、面倒くせぇ」

「それか俺から水瀬さんに提案したい」

「おー!ええやん!じゃあ、頑張れよ」


次会ったらラインアカウントの交換が出来るかは知らないが、少なくとも親友君に教えてもらうのはちょっと負けた気分になる。


「とりあえず、水瀬と会うのは次の土日のどっちが良い?」

「どっちも暇だからいつでも良いよ……。ま、土曜日でいっか」

「よしわかった。待ち合わせ場所や時間帯は俺が決めとくから水瀬とのデート楽しんで来いよ」

「で、で、で、デートなんかじゃねーよ……?」

「動揺し過ぎ……。まぁ、水瀬はコウにメロメロだからなー。コウにメロメロよ」

「うるせぇな!みんなして剛を嫌いやがってよ!」

「じゃあ、どうすれば剛状態で好かれるのさ?」

「名字が平山なのが悪いよな。堂本だったらなー」

「知るかよ」


光一派の親友君は冷たい反応であった。

気付けば、土曜日の昼前に駅前集合という平野コウの用事が決まってしまったのだった。

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