42、平山剛は指示待ち人間

「指示待ち人間かぁ……」


数学の授業中、親友君からの鋭い指摘が胸に刺さりそれがじくじくと痛んでいた。




『確かに指示待ち人間は楽なんだけどなぁ……。指示する人間消えると悲惨だぞ……』





指示待ち人間。

自発的に動けない。

幼なじみで、親友の親友君にそのままハッキリ言われると堪えるなぁ……。


俺は、自分の乗ったテンションに任せるのが苦手だ。

いつかの小学生時代。

算数の授業中に先生へ挙手制で問題の答えを当てるというよくある光景が頭に思い出す。

答えの自信も無く、全然解けてないけど周りが『わかった!』と連呼している中で自分だけが挙手しないことが恥ずかしくて『先生にかけられないように……』なんて祈りながら右手を上げた。

それに対して『じゃあ、平山君!』なんて期待した目で先生に指名された時の絶望感は未だに忘れられない。

適当に『計算の答えは10!』とか自信満々を装いつつ、外した経験からか、俺から自発的に動くことが少なくなったっけなぁ……。


それから挙手するのがトラウマになり、先生から指示されないと答えを口にしない癖がドンドン強くなってったなぁ……。


「はい、この式の問題を水瀬。解いてみろ」

「10です」

「正解だ」


俺の隣の席の水瀬さんは迷うことなくすんなりと問題を解いていたようだった。

現在のハイスペックギャルな水瀬さんみたいに指示されないと俺は動けないんだろうな……。

自分の女々しさが呪いのようだった。


「…………はぁ」


その呪いを放置した結果が長すぎる前髪と、だっさいメガネである。

クラス委員長だって誰もやりたがる人がいなくて、去年同じクラスだった仲良くない男子から『平山、やれよ』と命令されて挙手したのだ(ちなみに当然ながらこの脅した男子は親友君じゃない)。

それから、何故か女子のクラス委員長に水瀬さんが立候補してしまい、俺は水瀬さんから顎で使われる立場になったのだった。


4月の新学期スタートから舐められたスタートだったなぁ……。


「じゃあ、次の問題は水瀬の隣の田中解いてみろ」

「えー?わかんねぇっすよ俺!?」

「自信満々に言うなよ……。ほら、この公式をただ当てはめるだけだぞ」


次の問題は水瀬さんの左隣に座っている俺ではなく、右隣の田中君に行って心でガッツポーズしていた。

今回は既に問題を解いていて、小学校の時のトラウマのようなことは起きないだろうが、発言することが嫌なのだ。


「…………」


でも、まぁ……。

男子の誰もがなりたくなかったクラス委員長になってしまったのは指示待ちの末路である。

しかし、その次の図書委員に掛け持ちの兼任立候補したのは指示待ちではなかった。

それくらいは親友君も評価して欲しかったなー、なんて朝俺から立ち去ったこともありムスッとしてしまうところだった。


「おーい、先生!どうせ水瀬の隣に当てるなら俺じゃなくて平山にしろよ」

「え?」

「じゃあ、平山。この答えはわかるか?」

「…………2x」

「はい、正解」


今日もまた指示に従ってしまっていた。

クラス委員長の地位も低すぎて泣けてくる……。


「ドンマイ、ドンマイメガネ」

「あ、ありがとう……」


水瀬さんのねぎらいの言葉が妙に暖かかった……。

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