11、幼馴染

次の日の学校帰り。

親友君と一緒に再びドリンクバーでファミレスに籠って談笑をしていた。

今回は学校帰りということもあり、いつもの前髪メガネの平山剛ver.である。

平野コウ状態の方が圧倒的に少ない現状である。


「へぇ、あの奏ちゃんが恋したねぇ……」

「あぁ。恋するなんちゃらクッキーってやつだ」

「フォーチュン、だな。覚えにくい時は朝チュンという単語の中の朝を4だと覚えておくとフォーチュンになるぞ」

「す、すげぇ!本当だ……。フォーチュンクッキーじゃん!で、でも朝チュンなんて単語あるのか?親友君の作った造語じゃねぇだろうな?」

「昔からある言葉だよ。検索すれば1秒かからず意味出るから」

「マジかよ、すげぇな朝チュン!朝チュンの意味はわかんねぇけど、めっちゃ覚えやすいじゃん!」


多分、朝からギターのチューニングすることを朝チュンというに違いない。

親友君は頭が良いから色々な単語を知っているようだ。


「それにしても、剛もついにコンタクトデビューだってよ!ウケるー!」

「ウケる要素どこっ!?」

「冴えないもっさりメガネが、髪を上げると甘いフェイス出るとかウケる要素しかないだろ。インスピレーション広がるわぁ……。シンデレラがガラスの靴に足を入れる奇跡を見せたけど、ガラスの靴を入れる直前に王子よりもイケメンな奴現れてシンデレラをかっさらうみたいな短編書けるわぁ」

「ちょっと見てみたいな」


小説サイトに小説を掲載する親友君のインスピレーションを刺激してしまうほどらしい。

読者は少ないらしいが、暇潰しに短編をガンガン上げるのが親友君の趣味らしい。

イケメンでリア充な陽キャでありながら、俺みたいな陰キャともフィーリングが合うのが彼の凄いところである。


「仲が悪い兄貴に相談するくらいに運命の人に出会ったとか輝いてて羨ましいなぁ奏ちゃん」

「なーに。親友君だって輝いてますよ」

「俺も童貞に戻ってもうちょいピュアな恋愛してみたくなるぜ」

「あれ!?親友君のオレンジジュースの中に俺がタバスコをぶっかけようとしているよ!」

「やめれやめれ。飲み物をオモチャにするな」

「タバスコの蓋を開けてるよ」

「実況すんな」


タバスコを取り上げられてしまい、きつく蓋を閉められて、親友君の手元にタバスコが置かれてしまった。

俺がおもいっきり手を伸ばさないと届きそうにない。


「てか、剛は好きな子いねぇの?」

「恋愛的な好きな子はなぁ……。特に」

「へぇ」

「親友としては親友君が好きな子だよ」

「きめぇからやめろ」


人に好意を伝えるのは難しい。

俺と親友君だから傷は浅く済むけど、これがガチ告白だったとしたら一生忘れられない傷になっていた可能性がある。


「まぁ、ぼちぼちお前の成長が楽しみだよ」

「は、はぁ……」


そして、相変わらず見透かしたような態度を取る親友君であった。

一緒のタイミングでずずずと飲み物をストローで吸っていた時であった。


「あ!いたいた!剛君に親友君だ!」

「あ……澪」

「あ、澪じゃん。久し振り」

「違うクラスだと中々3人会えないねぇ……」


そんな風に悲しげに呟きながら、俺が座っていたソファーの隣に澪が座り込んだ。

当然、ちょっと俺が奥へと詰めた形になる。

彼女は席に座ると、すぐにタッチパネルでドリンクバーを注文し、また席を立った。


「あれ?澪呼んだ?」

「呼んでないよ。親友君が呼んだものかと」

「じゃあ偶然か」

「まぁ、俺らよくこのファミレスで駄弁ってるからねー」


こないだは水瀬さんが勉強していたファミレスだが、今回は俺ら2人の幼馴染である澪が自分からやって来たようだ。


「お待たせー。見て見てー、山ブドウジュース」

「珍しくもなんともねー」

「あはははは」


改めて、澪が俺の隣に座り、山ブドウジュースを一口含んだ。

違うクラスなこともあり、最近は疎遠になりつつあった彼女の名前は桃田澪ももたみおである。

ロングストレートにした黒髪がチャームポイントの大和撫子といった風な美人さんである。

子供の時──、それこそ砂場で山とか作っていた頃からの付き合いである。

高校生に入ってからは、小学校からの同級生は俺、親友、澪の3人しかもう残っていないのだ。


「まーた、2人でくだらない話をしてたんでしょー。親友、あんたは本当に剛を弄るの辞めなさいよ」

「俺は弄ってないさ。弄らせたくなるように剛が俺にネタを提供するのさ」

「してないよ!?弄らせたくなるようにって何!?」

「そういうのが弄ってんじゃん」

「確かに」


3人でクスクスと笑いあった。

澪は妹や水瀬さん、水瀬さんのギャル友とかと違って本当に優しい人である。

俺の数少ない癒しをもたらしてくれる女性である。

また、妹こと平山奏も澪には懐いていて慕っているという存在である。

なんなら澪と妹の方がより姉妹だと勘違いしてしまいそうなる。

俺と妹ではもはや他人に近い距離感である。


「今日はどんな話をしてたの?」

「あぁ。フォーチュンクッキーの覚え方とか」

「へー。カラオケみたいなのかな?どんな覚え方?」

「ほら、剛」

「あぁ。朝チュンの『朝』という単語を4にしてフォーチュンになるよって覚え方をね」

「純粋に最低だ!親友!」

「ひゃははははははは!やっぱり剛最高だぜ! 」


澪の叱りに仰け反るどころか、爆笑できるのだからやはり親友君は大物である。

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