39、月曜日の憂鬱度
「おー!剛じゃん!朝から剛じゃん!」
「『朝から剛』って地味にいそうなお笑い芸人みたいに呼ばないでよ!?」
本日、電車に揺られながら学校の電車を降りたところに親友君と出くわす。
といってもよく電車を降りると見かけるのでレアでもなんでもない。
「朝からもっさり前髪見ると、切りたくなるよな」
「やめて!?髪切ったらお金払わないといけないじゃん!」
「なんで親友の俺が髪切った上に金を徴収するんだよ。俺、別に床屋じゃないからな!」
親友君に毎度のように前髪を弄られる。
不快感がゼロと言えば嘘になるが、親友君と喋っているだけで楽しいものである。
水瀬さんとミヤミヤとウインドウショッピングをした週末だったが、やっぱり野郎同士の気安いバカ話は気が滅入る月曜日の鬱を軽減させる効果があるようだ。
「あ、でも親友君が床屋になったら週1で遊びに来るよ!」
「月1で髪切りに来いよ」
「な、中々に正論だね親友君。ただ、親友君は大人になったらホストになると思ってるから床屋親友君は俺の願望だね」
「俺、『ホストなる』とか人生で1回も言ったことねーからな」
「俺も聞いたことないよ」
親友君がホストなら俺も年1で行きたいものである。
そんな親友君と並びながら雑談していた時だった。
『トォッ!』
「いだっ!?」
「がっ!?」
俺と親友君は同時に後ろから首に腕を当てられたような痛みが走り、3歩ほど前に出てよろめいた。
こんなイタズラをする知り合いは1人しか居なくて察してしまうし、親友君も「この野郎っー!」とその正体にすぐに気付いたようだった。
「な、なにすんだよ澪!?」
「まーた、剛が親友をベタ褒めしてるんでしょ。相変わらずねー」
長い黒髪がトレードマークである桃田澪が両腕でラリアットをしてきたのである。
「澪は右手が利き腕なんだから親友君より俺の方がダメージでかいじゃないか!」
「右歩いてた剛が悪いじゃん」
「右にいた罪だな」
「え?なんで2対1で俺が悪者……?」
被害者が加害者になっていた事例にはじめて遭遇した気になった……。
「じょーだん、じょーだん」と親友君と澪は笑って誤魔化したが騙されてないかと不安になりそうである。
なんかこの2人は、俺弄りに余念がないからなぁ……。
「そういやさー、部屋掃除してたら2年くらい前に剛から借りたマンガ出てきたんよ」
「え?2年前?俺、澪になんのマンガ貸したっけ?」
「『灰になる君へ』ってゲームのコミカライズのやつ。2巻で完結したやつ」
「あー!女子大生3人が廃墟に入ってなんかされるホラーゲーム!あったなそれ!」
「うっ!?俺、剛にネタバレくらった!?」
「絶対親友は興味ないじゃーん!」
「今日から『灰になるお前』をプレイする予定だったの」
「ファイナルファンキーとかどら焼きクエストとかベタなゲームしかしないクセに」
「あと、『灰になる君へ』だよ。『灰になるお前』って何!?」
30秒くらいの雑談で何個も突っ込みどころがある会話が繰り広げられている。
「俺、そのコミカライズ貸したの1・2巻発売して1週間後くらいの頃だよね!?もはや澪のものになってんじゃん!」
「いやぁ!序盤の一ノ瀬楓ちゃんが死ぬシーンは女の私もキュンと来たなぁ!」
「ネクロフィリアかなんかなのお前?」
「わかる!わかるよ澪!可愛い女の子が無残に殺されるのときめくよね!」
「こっちにも同類が……」
「親友も読めばわかる!私、今日貸すよ!」
「いや、俺のマンガだから!勝手に貸し借りすんなよ!?まぁ、親友君なら許すけど……」
何故か一般的な感性を持つ親友君に、リョナの背徳感を覚えてもらいたいものである。
リョナは良いぞー!
果たしてベタなゲームしかしない親友君にリョナははまるのか必見である。
「あ、でも今日委員会だったね……。めんどー、明日貸すね」
「俺、そのコミカライズ借りるって言った?」
「え?委員会?やべっ!俺も委員会じゃん!?」
完全に忘却された放課後の委員会活動を思い出す。
クラスの図書委員として絶賛活動中の俺は月曜日の憂鬱度が跳ね上がりしたのであった……。
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