17、水瀬愛は首を振る
「はーい!これからボランティア活動の場所を決めるぞ」
『えーーーー!』
「おいおい、嫌がるなよお前ら……。ボランティア!ボランティア!」
担任の男教師が黒板にデカデカと『ボランティア活動』と白チョークで書きはじめた。
生徒の批判もなんぞやとばかりに勝手に話を進める担任であった。
今年、はじめて担任になった先生だが、体育会系な人でありやや強引でおおざっぱなところのある。
賑やかな先生ではあるが、プライベートではあまり関わりたくない性格をしている。
因みにボランティア活動とは文字通り、ティッシュ配りとか募金支援などを呼び掛ける活動である。
地域貢献に力を入れている学校を自称するだけはある。
ボランティア活動で、本当に募金した額が被災者や、貧しい国に届いているのか?というのは昔からの疑問点なのは否めないので、ボランティアという響きがあんまり好きじゃない。
なんちゃら共済とかに取られてんじゃね?みたいな疑いがある。
実際、手数料とかも募金から取られているとかなんとかをネットで見た記憶もある。
「ボランティアは義務!青春には偽善と罵られようがやらねばならない!進級条件にもあるようにボランティアはやらなければならないのだ!やらない善よりやる偽善というやつだな!ハハハハハハハ!」
ボランティアとはそもそも押し付けられるものではないと思うというのは、俺がひねくれた人間だからだろうか。
嫌な年の取り方をしてしまったようだ。
母さんのように清らかな心のまま育ちたかった……。
「ボランティアのする場所は、駅やデパートの中、公共施設内など色々あるからなー。そういうところに出向くぞー。まぁ、去年みんなしているはずだから流れはわかっているはずだ。セルフで思い出してなー」
プリントを配りながら先生がボランティアの説明をしていく。
周りのみんなの嫌々な気配をビンビンに感じ取ってしまう。
俺もだけど、クラスのみんなも乗り気な生徒は少なめだ。
ぶっちゃけ勉強や遊びに時間を費やしたい人が多いのだろうね……。
「授業の息抜きだと思えばこなせる。イケる、イケる!」
「せんせーっ、むせきにんーっ!」
「生徒の活動の成功を祈ってるからな!」
「やっぱりむせきにんーっ!」
「教師もボランティアヤれーっ!」
他人事のような担任の言葉と反論しているクラスメートに耳を傾けると、前の席から『ボランティア活動の詳細』と大きく見出しをされているプリントがまわってきた。
こないだは、澪たちのクラスがボランティアをしていたらしいのでそのバトンがこのクラスにも渡されたようである。
澪が赤い羽根を配っていたので、親友君とからかうついでに募金してきて赤い羽根をもらった記憶がある。
その後の赤い羽根は妹から『ミオねえからもらったらしいじゃん。ちょうだい』とか言われて、素直に渡したので彼女に持っていかれてしまい手元から消えてしまった……。
悲しい出来事である。
「ねぇ、ねぇ、水瀬さん、水瀬さん」
「ちっ……。なんだよメガネ。あと、名字を2回連続で呼ぶなよ」
「ねぇ、ねぇ、水瀬さん」
「あ、ごめん訂正。名字を呼ぶなよ」
同じタイミングでプリントがまわってきた隣の席の水瀬さんに声をかけると、いつもの如く不機嫌に舌打ちをされてしまったのであった。
「じゃあ、……愛さん」
「っ!?!?!?」
「え?なんでそんなに驚いたの?」
「ちっ……。名前で呼ぶなっての」
「じゃあ水瀬さんをなんて呼べば良いの!?」
「ちっ……。うっせぇな……。要件はなんだってんだよ!」
コウの時みたいに名前で呼んで見たら目を丸くして、一瞬だけ顔を赤くしていたのだが、そんなことはどこへやら。
舌打ちをするとテンションが元に戻るらしい。
「水瀬さんってボランティアとか得意そうじゃない?」
「ちっ……。どの辺がだよ、嫌みか?どういう思考回路してんだよ」
「いや、そうじゃなくて……。水瀬さんはたくさん友達いるから人と仲良くできる才能あるからさ。羨ましいなーって」
「あ……、あっそ」
「俺はそういうの苦手だからさ」
水瀬さんが俺の言葉を聞いてプイっと右側に首を振り俺を視界から消した。
な、なんか機嫌を悪くさせてしまっただろうかと心配したのだが、舌打ちが飛んでこないだけそこまで不機嫌ではない気はする。
プチ不機嫌くらいか?
水瀬さんを観察すると、足をバタバタ動かしている。
子供みたいで可愛いけど、どんな心境なねだろうか。
妹ともまた違う俺への拒絶感はなんなんだろうか……?
「ボランティアとかいっても堅苦しくないからなー」と先生が力説をしている。
去年はクラスメートで2人1組になるということで親友君と募金の呼び掛けをしていた。
なので、今年も親友君を誘おうと考えていた。
まぁ、サクッとやってボランティアなんか終わらせるか。
プリントを呑気に黙読していた時であった。
「とりあえず2人1組についてだが……、組み合わせ考える時間無駄だから隣の席同士で一緒にボランティアってことでよろしくな!こういう風にスパッと決めると時短できるし、楽で最高だなっ!」
「…………は?」
「…………は?」
俺と水瀬さんが同時に声を上げた。
その声がお互い耳に入ったので顔を見合わせた。
お互いが『マジで!?』と顔で訴えあっているのだろう。
「水瀬さんと……?」
「メガネと……?」
強制的に水瀬さんとのボランティア活動が決まった瞬間であった。
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