21、男キラー幼馴染

「にゃはははははは!剛がポケットティッシュ配ってるやーんー。にゃはははははは!」

「ネコ笑いみたいなのやめろよ……」

「にゃん、にゃん」

「お前なー……」


暇らしかった澪がブレザーを着込んでこちらを弄りに来たようだった。

面倒な奴が来てしまったもんだし、親友君とつるんでいるみたいだしで最悪だ。

澪も親友君も俺のことを弟みたいな目線でオモチャにしか見ていない節がある。

どっちも俺のことを兄と姉として接している態度が見受けられる。


「剛のボランティアを肴に舐めるチュッパチャピスのコーラ味はうまいねぇー」

「チュッパチャピスのコーラ味はいつ舐めても味なんか変わらないから!」


棒付きキャンディのチュッパチャピスを口の中でコロコロ転がしている。

チュパ、チュパとやらしい音をわざとらしく出している。

女の子が舐める棒付きキャンディってなんで舐めているだけでエロすを感じるのか。

棒付きキャンディを口に入れながらまわす回転速度、細くて白い指とやたら性的だ……。

永遠の謎である。


「あと、剛の妹ちゃんに『一緒に剛いじらん?』って送ったら『きしょいんでパス((((;゜Д゜)))。ミオねえ1人で行ってきたら?』って来たよー。ほらほらー!相変わらず仲悪すぎて草草のくさぁー」

「ほのぼのエピソードで語るにはちょっと無理のある暴言じゃん!」


スマホのラインを見せられると、確かに妹の平山奏からその文章が送られていた。

『行く価値ないよ』という無情なメッセージもちろっと見えてしまった……。

相変わらず妹の塩対応である。


「ペロッペロッ……。てかてか、見ちゃったよー。つよしぃぃぃ!」

「な、何がだよ……?」

「にゃはははははは!チュパチュパ」


棒付きキャンディを口に咥えながら、また弄るように笑いだす。

なにかまた変な弱点を発見されたなと思っていると「ドンマイドンマイ」と背中をビシバシ叩かれた。

「なんだよ?」と尋ねると、にまぁぁと満面な笑みを浮かべた。


「男子中学生6人集から露骨に避けられてたねー」

「なっ…………!?」

「動画で撮影しちゃった!ツイッターにあげようと思ってて」

「ば、バカ!何やってんだよ!悪魔のしわざやぁぁぁぁぁ!」

「相変わらず剛がおもしろくておもしろくて……」

「ツイッターはやめろよ。拡散されんだろうがっ!」

「それは自信過剰だよ……」


涙目になって俺を遠慮なくからかってくる。

こいつは中学時代や、現在のクラスでも、距離感が近すぎることで男子からの人気も高いようだ。

それでいて見た目は清楚な大和撫子だ。

黒くて輝いているロングストレートなギャップは、もうクラスのアイドル的な扱いらしい。

親友君は『男キラー幼馴染』と称する程度には、男を勘違いさせる仕草が多いのだ。


「仕方ないにゃあ!ポケットティッシュ、もらってやんよ。くれくれー」

「クレクレマンにはあげませーん。これはボランティアなんでー」

「クレクレマンじゃなくて、クレクレウーマンですよ。一応、これ、ティッシュ減らしたぶんだけ内申点上がるらしいよ」

「カゴのポケットティッシュ全部あげる」

「うわー、ろこつぅー……」


「そんなにいらんしぃー」と言いながら2つほどポケットティッシュを受け取ってくれた。

水瀬さんが減らしたぶんと比べるとスズメの涙ぶんだが、内申点が上がるならもっともっと貢献するしかなさそうだ。


「あとは、剛の風貌がダメ。とりあえずメガネ外して、前髪上げて清潔感だそ?」

「やーだ!絶対やだ!」


いきなり心の準備なくコウ状態にはなりたくない。

そもそもヘアピンや、ヘアゴムも持ち歩いてないし。

水瀬さんに正体明かすのも恥ずかしいし、なんかもったいない。

そう思い、チラッと彼女を盗み見た時だ。


「あの……」

「んん?」

「まだボランティア中なので……。メガネ……じゃなくて平山の邪魔はあんまりやめて欲しい」

「あ、あなたが水瀬さんだよね」

「はい?」


ボランティアの邪魔になるのに釘を刺した水瀬さんだが、澪は残念ながらターゲットは俺から彼女へターゲットが移ったらしい。


「親友とかに話聞いてるよー」

「し、親友に?」

「水瀬さん、美人ですねぇー。剛にはもったいないね」

「余計なお世話だよ」


澪が気に入ったのか、水瀬さんに近付いていく。

嫌な接点が出来てしまった……、と心で頭を抱えてしまっていた……。

『舌打ちクイーン』と『男キラー幼馴染』のコンビ誕生である。

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