4、平山剛

「結局、今日1日平山剛として過ごしてどうだったよ?」

「いつも通りだよ!今日も昨日も一昨日もずっとずっと平山剛なんだよ」


学校からの帰り道、オシャレでイケメンにブレザーをチャラく着込んでいる親友君と歩いていた。

通学路である駅に向かって、報告をしていたのであった。


「相変わらず水瀬は?」

「舌打ち、舌打ち、舌打ちだね」

「彼女、俺に舌打ちしないけどねー」

「それは親友君だからだよ……」


彼は『鉄棒の逆上がりくらい誰だって余裕で回れるよ』とか言いながら難なく逆上がりが出来ちゃうタイプの人間である。

俺は結局出来ないまま小学校を卒業して進学してしまった記憶が蘇る。


「やっぱり原因はメガネと前髪だな。清潔感がない。メガネがださい。風貌が怪しい。スリーアウトチェンジ」

「まだバッティングに立ってすらないのに!?」

「前髪切ったら良いじゃん」

「人と目合わせる振り出来るの最高じゃん」

「お前、人と目合わせて会話するの苦手だもんな……」

「清潔感を改善する努力はないか……。まぁ、前髪上げるだけで清潔感なくなるならまぁそれは良いか……」

「そういうこと」


人の自分を評価している目がとにかく苦手である。

あの視線を前髪で隠せるのは非常に生きやすい。

だから前髪を切っても目が隠れる程度に抑えているのだ。

それに前髪が上げたら清潔感が上がるなら一応はクリアである。


「次、メガネがださい。どこでそんなメガネ売ってんだよ。なんか日曜夕方アニメでよく現れる『ズバリあなたは童貞でしょう!』とか言ってる丸尾君みたいで怖いし、マジでださい」

「丸尾君、絶対そんなこと言わねぇから!だって丸尾君も童貞だからっ!『ズバリ』付けときゃそれっぽいイメージ捨てろ」

「お前、ナチュラル失礼だな……。てか、その丸尾君メガネどこで売ってるの?いくらしたの?」

「眼科と提携しているメガネ屋。セールで15000円はしないくらいよ」

「たっか……。15000円も使って顔面を変にしてるのか……。セールなかったらもっと高いのかよ」

「14800円だったかな」

「誤差だよ」


丸尾君とは相変わらず歯に衣を着せない評価である。

このズバッと言いにくいことも本人に伝えられる親友君は付き合いやすいのだ。


「そして、最後。風貌が怪しい」

「ま、まぁわかるよ……。でもそういう芸能人山ほどいるし……」

「芸能人基準で語るな一般人がっ!でも、ほら顔前髪上げてメガネ外すとまともなイケメン!」

「普段がまともじゃないみたいなニュアンスはやめてくれないか……」


それはそれで傷付くことは傷付くのだ。

メンタルもそこまで最強ではない。


「でも、風貌。見た目って超重要よ?街で殺人事件が起きました。その周辺に剛はいて、事件を知らされたとしよう」

「う、うん……」

「この場から逃げようとするお前は、警察官とジェイソンのようなホッケーマスクを被った奴に出会いました。どっちに助けを求めたい?」

「警察官だな。うわっ!?風貌ってめっちゃ大事じゃん!」


風貌なんて言うほどか?と半信半疑であったが、こんなにわかりやすい例えが出るなんて親友君は天才じゃないだろうか。


「因みに犯人は警察官の格好をして油断させていたのです。あーあ、剛死んだな」

「え!?これトラップなの!?ならジェイソンにしときゃ良かったよ……」

「ジェイソンは警察官の格好をしている犯人の奴とグルだぞ。チーン、剛は死にました」

「こらこら。無駄な情報を盛るなよ」

「固定概念に捕らわれるなってことだな」

「初耳だよ、そんなの……」


してやったりな顔である。


「でも、概念って言葉はカッコ良いよね!ギリシャ語で『エニア』なんだよ」

「突然ギリシャ語の話題に持っていくお前にビックリだよ。大抵、ギリシャ語はカッコ良いよ!あと、『固定概念』はギリシャ語で『ステレオタイプ』だから『エニア』って単語は消えるんだな」

「7へぇ」


『エニア』って単語自体、俺が持っているゲームの知識でしかないわけだけどね。


「そんで、お前は水瀬さんに惚れてるの?」

「惚れてるけど、恋じゃない」

「ほーん?」

「単純的好奇心とでも言うべきか」

「単純的好奇心、ね……」

「なんだよ、含み持たせた言い方して?」

「べっつにー」


彼は楽しそうにメロディーに乗せた言葉を放った。

恋してるって言いたいのかもしれないけど、絶対にそんなんじゃないはずなんだ。

絶対に……。


「てかさ、お前」

「ん?」

「水瀬さんと絡むようになったのってなんで?陰キャがパリピみてぇな子と話すきっかけってなんだよ?普通、無視が安定じゃん」

「あぁ。去年、雨がすげぇ日に傘貸したんだよ。それで知り合って、舌打ちされるようになった」

「いや、なんでぇ!?」

「知らねぇよ。『わたしに傘貸してムカつく!』くらいで嫌われたんじゃないか?」

「恩が仇になってんじゃん。あーあ、傘貸したのが平野コウだったら今頃ズッコンバッコンしてたよ」

「ははは。流石に公園でシーソーする年齢じゃねーよ」

「純粋で健全で草」


俺と水瀬さんがシーソーをしている絵面が浮かんだが意味不明過ぎて本当に草である。

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