第11.5話 逢引きの裏側 和泉仙子視点
「それで、貴女に何があったのですか?」
奴のしつこさは、尋常じゃない。
有耶無耶に事が流れたかと思いきや、鬱陶しくも月白は私に再度問いただす。
一般人ならば時間遡行してます〜なんて告げたとしても『は? 何言ってるの? うっわ頭イカれてるわ、近付かないでおこ……』となるが、頭のネジが外れてるコイツならば自身の知的探究心を埋めるために、色々突いてくるに違いない。
「私は私よ。それ以外の何者ではないわ」
「そうですか。そういうことにしておきますね」
今ので納得してくれるの?
まぁいいわ、お父様と違ってチョロいわね。
──と言うかそもそもの話だけど、何で月白と茜は隣同士なの?
それ以前に月白は同じ組ではなかった。
何これ?
わけが分からないよ……茜助けて。
あれっ、茜いない。私の茜どこ?
「茜は? まさか、あの
「お二人なら先に食堂に向かわれましたよ」
道草食ってる場合じゃねぇ! と、私は月白の車椅子を進めて、二人の後を追う。
コイツを放置してもよかったのだが、後味も悪いので月白の補助を行う。
早く急追しないと、あの
月白が足枷になっているが、置き去りにしたと看做されるのも御免だ。
「月白様ご機嫌よう……和泉様……!?」
「あら、皆様ご機嫌よう」
道中、他の生徒と遭遇する度に月白が挨拶を交わすため、大分時間の浪費が激しい。
私と月白の組み合わせが特殊なのか、物珍しそうな視線を感じる。
見せ物じゃないから失せろとは言わず、私は悶々とした気持ちを押し殺す。
「あら、皆様ご機嫌よう」
「ちょっと、絡まれる度に対応するの辞めてくれる!? 置いてくわよ!?」
悠々自適に世間話に繰り出す月白を放置して先に行くかと結論付けた時、対面から姦しい歓声が響き渡る。
歓声と同時に道が開き、中央から一際目立った
嬌声を上げる輩に一々対応する男に、我関せずと無口な男に、邪魔だ失せろと追い払う荒々しい男の面子。
春月の有力者で間違いないのだろうけれど、私の記憶には彼らの顔と名前が一致しない。
茜への要注意人物は事前に復習し抜かりはないが、男性陣は対象外だから把握していない。
ちなみに私の作成した要注意リストには等級が区分けされており、
特級は、最上級に位置し、私が最も警戒すべき前世での茜の婚約者だ。
一級は、前世において茜に好意を抱いていた人物。
世界改変によって茜との婚約者になり得る可能性があるため、こちらも注視していかなければならない。
二級は、茜と絡みのある女全てが属する。
左程警戒する必要はないが一級に昇格する恐れもある。
三級は、茜に敵愾心を抱く人物。
彼女達は茜の攻略対象から除外されるため、私にとっては大変都合の良い存在。
ともあれ今は要注意リストと三馬鹿よりも、茜の隣に舞い戻らなければならない。
きっと茜は私がいないことで寂しがっているはず。
あの子は人見知りな一面があるから、私が隣にいないと不安になってしまうのだ。
今直ぐ戻るから待っててね……!
「やぁ月白さん。それと……和泉さん?」
私は存在感を薄めて三馬鹿と素通りしようと思ったが、連中のうちの女誑しが私達に気が付く。
女誑しに腹黒女ァ……!
コイツと一緒だと余計目立つから厄介なのよ……!
「あら、
「うん、そうなんだ。よければ月白さん……和泉さんも一緒に僕達とどうかな?」
私を誘うべきか葛藤したのか、一瞬の間に余計な気遣いを感じさせる。
そうだ──と、私は天才的な案が思い付く。
この三馬鹿に月白を押し付ければいいのだ。
「私は用事があるから遠慮するわ。月白はお三方と親睦を深め合ったらどう?」
そうすればコイツの面倒を任せられる上に、茜にいち早く追い付くことが叶う。
もう一つ邪魔な要素が残りつつあるが、一つの弊害排除が達せられる。
月白と月宮と同じ月同士、お似合いだしね。
天才的な発想……自分の才能が怖いわね……。
「おい和泉、俺達の誘いを断るのか」
多忙な私に馴れ馴れしく声を掛けるのは荒々しい男だった。
「用事があると告げたはずだけれど」
「はっ、名誉ある御三家の誘いを断るとは、そりゃ大層な用事だなぁ。いいからお前も来いよ、どうせ一人なんだろ?」
乙女の柔肌に触れようとする手を振り払う。
「気安く触れないでくれる? 汚らわしい。第一アンタ誰よ」
「んなっ、お前俺を誰だと思って……! 俺はなぁ、
それより流石に茜に追い付かないとまずい。
私は月白を切り捨てると判断し、廊下を駆け出す。
「じゃ、御免あそばせ──!」
「お嬢様が廊下を走らないでください。はしたないですよ〜」
後は月白と月宮の月コンビが何とかしてくれるだろう。
背後からの喚き声に耳を貸さず、私は早足で距離を縮める。
高校生の私の体力は無尽蔵で、幾ら急いでも疲弊を感じさせない。
これはもう勝ち確定。
目先には高身長な茜と低身長の
ちょっと待って……二人とも距離近くない?
肩と肩同士触れ合っているし。
アンタ、茜とは初対面でしょ……!? それなのにパーソナルスペース狭すぎでしょ!?
茜は自身の好意に気付かない鈍感な可愛らしい一面があるから仕方がないけれども、アンタのそれは何!?
確定だ。
やはり危惧していた通り、コイツも月白と同様で打算的な腹黒クソ女だ。
私は二人の仲を永遠に引き裂こうと介入しようとするが、何やら二人が私の事について話しているのが聞こえる。
「お嬢は直ぐに暴力に訴える荒くれ者でした」
「ウ゛ッ(絶命)」
どうやら私の黒歴史を説明しているようで、思わぬ茜の先制攻撃に対処出来ず悶え苦しむ。
しかし、茜の加虐的な発言……それが実に心地良く、癖になる。
陰に潜み「ハァハァ」と吐息を漏らしながら、私は茜の声に耳を傾ける。
「警察にお縄になりそうな人物となりました」
不法侵入……あぁ、昨晩茜を色々と堪能していた件ね。
あの夜の茜は随分と魘されていたけれども、大丈夫だったのかしら……。
不安を緩和させるために手を握ってあげたのだけれど、何故か余計に苦しみ出したのよね……。
子守唄を歌うと、唸り声を上げていたし……。
心配だし、一度病院に一緒に行った方が良さそうね。
「──ただまぁ、あんなでも偶には格好良いんですよ」
「え──?」
──今何と仰いましたか?
私のことを格好良いと……?
格好良い……格好良い……格好良い……私のことを好き。
茜は照れ隠しな態度が大分多いけれど、やっぱり私のことが……好き?
全身に熱が入り顔が熱くなるのが伝わる。
駄目だ。
今は茜の顔を見ることが出来ない。
恐らく今の私では、第一声が「ふひぃ……」とクッソ情けないものになってしまう。
茜の愛する私として相応しい態度でなければならない。
今は深呼吸で心を落ち着かせて──。
「和泉さん、顔が気持ち悪いですよ」
「ふひぃ! きゅ、急に話しかけないでくれる!?」
いつの間にか追い付いていた月白が私の顔を覗き込む。
というかコイツ、あの三馬鹿に同行しなかったの?
あの
「ほう逢引きですか。興味深い」
月白も陰に隠れ、二人のやり取りを見守る。
三馬鹿……月白に
──三馬鹿と二人を繋ぎ合わせればよいと。
月白と女誑しをカップリングさせるか、
脳内ピンク女と
迷うわねェ……。
それだと誰だか忘れた後一人が……除け者に。
けれども後一人いるということは、仮にこの組み合わせが合わなかったとしても、その代役になり得るじゃない?
ともあれ私は二組の恋人を作る後押しをするのが、最善策なんじゃない……?
「和泉さん、どうやらお二人の逢引きも一段落したようですよ」
ご報告ありがとう。
私は月白の車椅子を押して、茜の元へ駆け寄る。
長いこと一人にさせてごめんなさいね。
「茜ー」
茜に声を掛けるが反応はなく。
緊張で喉の調子が悪く、声が届かなかったのかしら。
私は喉を整えて、再度愛する者の名前を呼ぶ。
「いつから聞いていましたか」
茜の真剣な表情に感情が昂る。
荒くれ者の件あたりから聞き入っていたと告げると、彼は何故か疲れ果てた顔をしていた。
茜の愛に応えるべく、愛の告白を再度告げると、彼は何とも言えぬ表情で「好きじゃない」との言葉を返す。
……んん?
話に齟齬が。
「お嬢のことは全然興味ありませんので」
あぁ、これは──。
やっぱり
いいのよ、私に全てを委ねて素直になっても……。
でもそんな態度も唆られる。
あぁ早く……早く茜と結ばれなければ。
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